第四百九十九話
「全くアレンにも困ったものだな。思いつきで次から次へと好き勝手動きよって……必要性があるのは理解するが振り回されるこちらの身にもなって欲しいものだ……と言いたいところだが、言っている本人が1番働いているから不満も言いにくい上に、この体はその振り回しでも耐えられるようにされているのは喜ぶべきか悲しむべきか」
ジャミトフは不満と共にため息を漏らす。
その傍らで――
「エッサー」
「ホイサー」
「エッサー」
「ホイサー」
「こんな風に土木作業をするなんて思いもしなかったねー」
「だねー」
プル達が触手だけでなく、自らの手で地ならし中である。
ジャミトフとその部下達は念のため
急遽決まった資源収集であるためまだ建設機械が届かないことと――
「でも偶にならいいかな。ずっとは嫌だけど」
「……そう?ボクは延々と穴を掘って埋めるお仕置きを思い出して手が震えるんだけど」
「それはMSでふざけてたあんたが悪い」
「えー、初めてMSに乗る時はテンション上がるでしょ!」
一種のレクリエーションとなっていた。
慣れない仕事(任務)ではあるが、慣れないからこそ楽しむこともできる。それが外を多く知らないプル達ならなおさらである。
「あ、またゴキブリがいる?!」
「それはクワガタだ」
「えー、似たようなものだよー」
「値段がつくものとつかないものの差は大きいぞ」
とプルのクワガタをG扱いする発言にツッコミと微妙にズレた意見を述べるジャミトフ。
彼らがいるのは南アフリカにある一年戦争前に自然保護を理由に閉山され、一年戦争時にジオン軍によって開山、一年戦争が終結して再び閉山されたレアメタル鉱山の1つである。
余談だが、自然保護で閉山した、と表向きにはなっていたが埋蔵されている鉱物がレアメタルだけあって一年戦争以前は極秘裏に政府が採掘していたりする。一年戦争終結後はティターンズが隠蔽して採掘していたがその存在を綺麗に隠蔽しすぎたことでティターンズ崩壊後はすっかり忘れ去られた存在となっていた。
そのことに気づいたジャミトフ達が手始めにとこの地を選んだ理由だ。
「しかし、この私がこのような泥臭い仕事をするとは思いもしなかったわ」
生まれた瞬間からエリートなジャミトフは自身がまさか土木作業をすることになるとは思いもせず、不愉快……ということもなく、プル達と楽しく陣頭指揮を執りながら地ならしをしている。
「あ、あれ、荷物届いたみたいだよ」
一部の感知能力が優れているプルが上空を見上げ、常人の肉眼では見えないような高度に落下するコンテナを見つける。
「でも降下座標がズレてるから私が修正するね」
制御が必要なものにはなんでもサイコミュなミソロギアではコンテナにすらサイコミュで制御が可能である。
「でもわざわざ建設機械がなくたってMSを使えばいいのにね」
「えー、可愛いキュベレイちゃんもシルメリアちゃんも汚したくないよ!」
「自分が汚れるのは気にしないのね」
「そんなのお風呂に入っちゃえばいいだけだよ!」
「MSもMDも洗浄すればいいでしょ……まぁ気持ちはわかるけど」
プルシリーズは基本的にパイロットとして育てられている。だからMSやMDに対して愛着を持っている者が多い。なので本来の用途ではない土木作業を行わすのに抵抗を覚えるプルシリーズはかなりいる。
アレンが居たならMSはマルチ性能が売りで、元々コロニー建設に使われていたパワードスーツから発展したものなのだから土木作業も本来の用途の内だ、と言ったことだろう。