第五十一話
「シャアを地球圏に……正確に言えばアナハイムとの取引に向かわせることが決定した」
「そうか」
……正直私にそんなことを言われても困るんだが……まぁハマーンの支柱の1人であるのは間違いないだろうからショックなのはわかる。
しかし、やはり私に言われても困るぞ。
「そして……しばらくはあちらでアナハイムが支援をしているという反ティターンズ組織を手助けすることになるそうだ」
だから私に言われても困ると言っているだろう。
だが、アナハイムと取引か……以前言っていたガンダリウムγを提供することが正式に決まったか。
生産コストが下がったとはいえ設備費用がかかる以上、現在のままでは大量生産が難しく、打開の目処がないのだから余裕がないアクシズにとっては当然といえば当然の選択だ。
それに反ティターンズ組織か……噂では反スペースノイドのティターンズは勢力を拡大し、少数精鋭部隊から軍そのものに進化しそうな勢いだと聞く。
確かに反スペースノイドの組織に対抗する組織があるなら利用する手はないだろう。
その利用するにしてもシャアを派遣するならティターンズを打倒することもできるかもしれない……まぁこれは高望みし過ぎか。
「それで……その反抗組織への手土産としてガンダリウムγを使ったMSの設計図を渡そうと思うのだが……」
「……」
なるほど、本命はこちらか。
つまり私にそのMSの設計図を用意しろということだな。
「そのとおりだ。期限は1週間」
「また無茶なことを……兵器開発部は?」
「……無理だと突っぱねてきた。あの無能が……」(そのおかげで予算削減してやったがな)ブツブツ。
ハマーン……苦労しているな……だが、1週間でMSの設計などという無茶振りはさすがにどうかと思うが。
それと言葉では言わないが、おそらくこの手土産はシャアの生存率を上げるための機体を、ということなのだろう。
「まぁ既に設計図があるんだがな」
「あるのか?!」
「ああ、元々ガンダリウムγを用いた上で古くからある防御機構を施した高機動にして重厚なドムの系譜として開発したのだが、コストに見合わないとお蔵入りさせたものだ」
「それは……なんというか……大丈夫なのか?」
「スペックという意味でなら問題ないはずだ。それにコストに見合わないのはアクシズで生産した場合で、アナハイムでなら少し高い程度で済むだろう。まぁもしそうでなくてもあちらが勝手に調整してくれるだろうさ」
「ふむ、そうだな」
憂鬱そうだったハマーンの機嫌が少し良くなったことを考えればこんな中途半端な機体でも役に立ったようだな。
ちなみにこのMSが後のリックディアスである。
アレン的には回避重視のシャアにリックディアスは向いているとは思っているのだがハマーンはそれを知らない。
後期プルシリーズ達の教育は順調だ。
プル達という姉がいるおかげで勝手に学ぶ、これが兄妹姉妹というやつなのだろう。
そのせいか、親として信頼を感じるがプル達ほど依存は少ないように感じる。
これはやはり頼る者の有無の差だろうか?
まぁプルツーやプル3はプルとは性格の不一致で頼りにできなかったから私を頼ることになったのだろうということは想像がつくがな。
プルは私にべったりな上に性格も明るいと言えばいいが自由奔放であるため頼りになるかと言われると否としか言えん。
そんな彼女達は今は採掘作業中だ。
後期プルシリーズには早々に戦力になってもらうために読み聞かせ教育の段階から採掘に必要な技術を優先的に教えた。
ただ、勘違いしないでもらいたいのはこれが資源を確保するためだけに行ったことではなく、早期の段階で専攻教育を施すとどのような結果が生まれるのかの実験でもある。
読み聞かせ教育がどの程度の影響を与えるのか、個体差がどの程度生まれるのか……どのような結果が出るのか楽しみだ。
「とりあえず、読み聞かせ教育はそれなりの効果があることは間違いないな」
後期プルシリーズはシミュレータこそ10回ほど行ったが今回が初めての実機だ。
万が一作業用MSが損傷でもしたら大赤字であるがこれも実験ということで目を瞑る。
そして、初めての実機で多少不味さはあるものの見事に採掘作業を従事している姿から明らかに初期プルシリーズの初めての時よりも習熟スピードが早いことが見て取れる。
つまり、専攻読み聞かせ教育はきっちり効果を発揮するということだ。
訓練が必要なのは間違いないが、その教育時間を短縮することは可能であり、兵士として、MSパイロットとして育てることが容易になるということを示している。
生まれる前のからの読み聞かせ教育か……研究のためとはいえ、可能性の目を摘むような気がして気が進まないがな。
それはともかく、労働力が倍になったことで資源の採掘は単純に倍となった。
これでより設備が、生産が、研究が、開発が進む……いや、採掘に更に投資してリターンを期待するか?難しいところだ。
「そういえばハマーンからくだらないおもちゃの設計図を手に入れたな」
兵器開発部が上げてきた開発プランらしいが……GP03に影響された機体らしいが……ブースターユニットというドダイのようにMS本体を輸送する機能を持たせつつも大量のミサイルを搭載させ、一撃離脱戦術で強襲、爆撃を行う機体だそうだ。
GP03ほど大型のものではなく、あくまでMSのサイズでそれを実現したというのは評価しないでもないが……アクシズでコストが掛かるミサイルをメイン武装に選ぶ段階でアホだろう。
そもそもアクシズにはコスト以前にミサイルを供給するだけの設備は難しいだろうに。
それに用途が限定されすぎているため使い勝手が悪そうだ。
もうちょっと考えて環境に合わせて開発しろ、兵器開発部。