第五百七話
この世界のジュドー達は最短で捕虜の引き渡しでトラブルがあった場合、最長で……特に話し合っていないが、ネオ・ジオンと連邦が一段落付いたあたりで解放する予定で、ミソロギアに引き入れるつもりは今のところない。
もちろん所属したいというなら歓迎するが、ジュドーにしてもリィナにしても若いから万が一この世界を切る選択ができないだろう。
前の世界のジュドーは成人していたからな。社会に出て、学歴の差や世の理不尽などを経験した結果、ミソロギアに所属したという経緯があるがこの世界のジュドー達にはそんな動機がない。
いや、むしろプルシリーズに関して思うところがあるのだから本格的に説得するならともかく、そうでなければ難しいだろう。
「この世界の兄さんもですか……苦労しますね」
「これでもアーガマに乗ってからはちょっとだけマシになったと思います。その前なんて――」
「わかりますわかります。私達はアーガマという艦には乗っていないので普通に生活をしていたんですけど兄さんが――」
「それは大変でしたね――」
「ここに来てからは兄さん達も少し落ち着いてはいるんですけど……以前はもっと荒れていましたし――」
「そうなんですか?!MSのパイロットになって人まで殺しちゃったからこれからのことが心配だったんですけど――」
「それは軍がなんとかしてくれると思う――」
ダブルリィナはダブルジュドーへの説教が終わり、話が弾んでいるようだ。主に兄の苦労話と将来への不安に関してだが。
それに対してダブルジュドーは――
「その年でMSパイロットかー。しかもZガンダムを盗もうとしたり勢いに任せてパイロットとして乗っちゃうなんて……と思っちゃうあたり数年の差でも年取っちゃったってことなんかね」
「でもわかるだろ?リィナを山の手の学校に通わせるために金が必要なんだよ」
「いや、冷静に考えろよ。俺達が犯罪者になったら山の手の学校に通えるようになったところで犯罪者の妹になるんだぞ?そんな状態で学校でどんな扱いされるかわかるだろ。大人達の俺達への態度以上だぞ」
「ぐっ」
確かに社会で家族に犯罪者がいる場合、ハンデとなる。それがコロニーという地球ほど広くもない世界となれば村八分にされるというのは容易に想像できる……が、この世界のジュドー・アーシタにはできなかったようだ。
まぁ元々スラム街寄りの場所に住んでいたのだからそういう意識でも不思議ではないか。
偉そうに説教しているこちらのジュドーだが――
「それはあんたに機会がなかっただけで機会があれば同じことやってただろ?!」
「ぐっ」
その通りだろう。ただ機会があったかなかったか、その違いであって本質的なものに変わりにはない。同一存在なのだから当然だ。
「そ、それよりMSの腕はどうなんだ。見せてみろよ」
「……比較対象がいないからわかんないけどそこそこいいと思う」
話を強引に逸したな。そしてこの世界のジュドーもそれに乗るようだ。まぁ同一存在が言い争っても不毛なのは間違いない。
「じゃあシミュレータをやろうぜ。アレン、いいよな」
「ああ、そっちのジュドー・アーシタのデータも入れてあるから問題ないはずだ」
むしろ自ら望んでデータ収集させてくれるなら手間がなくて助かる。
「へっ、聞いた話だとあんたは実戦経験が少ないらしいじゃないの。大丈夫なのかよ」
「こっちはアレンの厳しいトレーニングを受けてんだ。実戦じゃわからないけどシミュレータで負けてたまるか」
と意地の張り合いをしているが、私の予想ではこの世界のジュドー・アーシタの方が強いだろうと思っている。
操縦技術そのものはこちらのジュドーの方が上だが、ニュータイプ能力はこの世界のジュドー・アーシタの方が上だとわかっている。
フラナガン機関がよく利用する虐待(ストレス)によるニュータイプ能力の向上、覚醒は確かに効果があり、この世界のジュドー・アーシタは若くて伸びがいい時期に実戦という虐待(ストレス)で随分鍛えられている。
それに比べてこちらのジュドーは私がトレーニングを施してはいるものの伸びの良い年齢を過ぎていたことや実戦経験が乏しいためニュータイプ能力の伸びが今ひとつだが、身体やMS操縦技術は鍛えてあるので戦い方次第と言ったところか。
「あ!私も混ぜて!!」
「じゃあ私も!!」
こういう展開になった場合参加するように事前に言ってあった通りにプルも参加表明をすると釣られてこの世界のプルも参加することになった。狙い通りだ。