第五十二話
……む、この気配は……誰だ？確か以前会ったことがあるような気がするが……気配は通常ゲートではなく、軍事ゲートからだと？
アクシズ内にはなかった気配ということは外から来たということだ。
はて？外の知り合いなら覚えている……なんてことはないな。私に必要な人間でなければ記憶の彼方だ。
しかし……気になる。
直感と言うかなんというか、その気配の持ち主は気にならないがその周りに私が気になるものがあるような予感がする。
「というわけでハマーン、同行を頼む」
「……今の私を見て、出た言葉がそれか」
「ふむ……仕事はもっとまめにした方がいいぞ」
「これは今日来た書類だ！！」
「なら便利な手段を用意してやろう。手の数が増え、護身にも使え、ニュータイプ能力の訓練にもなるとっておきを、な」
「それはもしかしなくても触手のことだな」
凄い便利だぞ。
8本も腕が増えたら書類仕事なんて一瞬だ。
「確かに便利そうだが……いや、しかし乙女として……仕事効率……触手摂政……くっ、乙女として致命的過ぎるっ」
くだらんの一言で一蹴されるかと思ったが思った以上に検討する余地があったようだ。
もっとも呟かれる言葉から感じる心中の鬩ぎ合いでは恥じらいの方がリードしているようだが。
「そ、それはともかく、アレンが気になっているゲートとは何処のことだ。私ならアクシズの入管データを閲覧することは容易いからわざわざ行く必要はないぞ」
……言われてみればごもっとも、気になりすぎていて頭が回ってなかったようだ。
気になるゲートを伝え、ハマーンが調べた結果……
「「……ああー、なるほど」」
2人で納得してしまった。
確かに感じたことがある気配だった。そして忘れている理由も判明した。
「あのいけ好かない若造が帰ってきたようだな」
いけ好かないはともかく若造って……ハマーンより年上だぞ。
ちなみに帰ってきたのはファビアン・フリシュクネヒト少尉(名簿を見て名前が判明)で、タカ派だった彼はハマーンを籠絡するつもりが最初からバレていて、アクシズの帰還の際にはタカ派だからとアムブロシアでパーフェクト・ジオングを運搬するためという方便で置き去りに——
「パーフェクト・ジオング！」
これは急いで確保しないと兵器開発部に持って行かれてしまうぞ。
「ハマーン」
「ハァ……わかった。手配しておく。その代わりそれ相応の成果を見せてもらわねば困るぞ」
失礼な。私は常に成果を出し続けているだろう。
「河童の皿の再現やろくろ首の再現などは成果ではないぞ」
「む、妖怪シリーズはお気に召さなかったか」
まぁアレは遊び半分で作ったものだから気にすまい。
「私が気にするのだが……そもそもあれをどうやって人間に使う気だったのだ」
「河童の皿はエラ呼吸が可能になるから実用性はあるはずだぞ。ろくろ首に関しては……自分の背中が見えることか？」
「陸上にいる場合は皿に激しい痛みが、水中では肺に水が入って長時間そのままいると肺のフィルタが詰まり壊死、腎機能にも深刻なダメージを与えてしまうのでは使い道がなかろう！ろくろ首に関しては論外だ！」
使い方次第だと思うのだが……仕方ない。今度は真面目なものをあげるとしよう。
「やっぱり不真面目だったのだな？」
さて、こうしてパーフェクト・ジオングが手に入った。
パーフェクト・ジオングは名に【ジオン】と付くだけあって装甲が超硬スチール合金ではあるがジオン軍の技術の粋を結集したものでカタログスペックだけ見れば私が設計したザクIIIよりも高性能だ。
もっとも機体の操作性が悪い上にサイコミュ搭載機であるため、パイロットはかなり選ぶようだがな。
それと……どれだけ贅沢な素材を使っているのやら。
生産性なんて度外視、ゲルググを単位にすると30機じゃ足りないぞ。どう考えてもゲルググ30機の方がコスパが良さそうだが……プル達が使えばあるいは、といったところか。
これは分解して新たにMSを複数作った方が効率がいいか？しかしスクラップ、リサイクル愛好家としては使える物を分解するのは何か違う気がする。
「どうしたものか……」
「いっそ新たなMSに昇華してしまえばいいのでは？ガンダリウムγを使えばまた違ったMSになるでしょうし」
「やはりそうするか」
なんだかやることが減らないのだが……なぜだろう。
まぁ最近MS開発も楽しくなってきたから問題ないのだが。
地球圏派遣組のメンツが発表され、ある面倒なことに気づいた。
イリアやプル達の模擬戦を頼んでいたシャアやアンディ、リカルド、カムジ准尉は全員地球圏派遣組……カムジ准尉は帰還……になっていた。
他にもニュータイプとして優秀なヤヨイ・イカルガも同行……ついでにリカルドといい感じであるようだがこれは余談だな。
ヤヨイ・イカルガに関してはハマーンと並ぶほどの逸材であるため手放したくないという私とハマーンの思惑もあったが、彼女の性格からして無理やりこちらに残したところで役に立たないだろうということでシャアの安全にも繋がる分だけマシということで許可することになった。もっとも私にそのような権限はないが。
イリアやプル達の訓練相手で残ったのはラカン・ダカランぐらいだ。
しかもラカン・ダカランは彼らの中で1番技術が低く、プル達よりは少し上だが、イリアでは7割の勝率となっている。
つまり訓練相手としてはイマイチなのだ。
さて、どうしたものかと考えているとある人物が私の元を訪れた。
「貴殿がアレン殿か、私はアナベル・ガトー、中佐だ。ハマーン様とシャア大佐にこちらに所属しているパイロットを鍛えるように言われている」
なぜこうなった？
いや、今説明されたから事情はわかったが、まさかソロモンの悪夢がイリアとプル達の訓練をしてくれるとは思わなかった。
「貴殿が開発したというアレン・ジールに助けられた。感謝する」
「アレン・ジールを開発したのは間違いなく私だが実際戦ったのは……」
「わかっている。しかし、あれほどの機体を個人で開発したと聞く。貴殿は素晴らしい才能の持ち主だ。ノイエ・ジールもジオンを象徴するような機体だったがアレン・ジールは……そう、MSの象徴であるザクを彷彿とさせる！」
……言われてみればノイエ・ジールはジオンのMAであることがハッキリわかるデザインだがザクという感じはしない。
それに比べてアレン・ジールはザクのデザインをハッキリ残していた。もっともその理由は部品を多くがザクやドム、ゲルググなどのものを利用しているのとデザインを考えるのが面倒でザクをモデルにしただけなのだが……。
「ドムやゲルググなどもいい機体ではあるがやはりザクこそMSの象徴にして原点——」
なんか1人でザクに関して熱く語りだしたぞ。
後ろで控えている男……確かアレン・ジールのパイロットであるカリウス・オットーだったか……に救いを求めようといたが、なんだかソロモンの悪夢の語りに感動しているようで助けを求められそうにもない。
……なんだかシャアに面倒なやつを押し付けられただけのような気がしてならない。
いや、訓練相手として申し分ないのは間違いないし、駆け引きという意味での裏はありそうだが性根はわかりやすい人物ではあるようなので扱いやすいというう意味では問題はないのだが。
というわけで早速イリアと模擬戦をすることになった。
ただ、アナベル・ガトー中佐の機体はまだ用意されていなかった関係でカリウス・オットーがアレン・ジールでイリアがガーベラ・テトラという形になった。
……色々とツッコミたい。
なぜ決戦・防衛兵器であるアレン・ジールと試作機であるためハイエンド機であるとはいえ汎用兵器でしかないガーベラ・テトラが戦うことになるのか……普通に考えればイリアがニュータイプであるとは言っても機体の差でアレン・ジールに勝てるわけがない……と言うか勝ってしまうとアレン・ジールは無用の長物になってしまう。
案の定カリウス・オットーの勝利となった。
今回は接近戦縛りではなく、普通の模擬戦であったのだがIフィールド発生装置を搭載するアレン・ジールに遠・中距離の射撃は封殺され、イリアの防戦一方で終了した。
もっとも無謀ではあったが健闘はしていたと思う。戦闘自体が10分を超えたのがその証拠だろう。
それにしても、機体の差があれどカリウス・オットーはなかなかのパイロットなようだ。ニュータイプを抜きにするとかなり上位に食い込めるはずだ。
ソロモンの悪夢はそれを上回るはずなわけで……期待できるな。
しかも、カリウス・オットーはどうもアレン・ジールに……MAに向いていないような兆候があった。
ふむ……ソロモンの悪夢とカリウス・オットーの専用機でも用意してやるか？しかし、こちらも仕事が立て込んでいるし、あまり無闇に兵器開発部から仕事を奪うと恨まれかねんか。
開設2007/4/16 リニューアル2010/11/10