第五百十話
「ここが戦死したプルの……プル24のお墓だよ」
「……これって墓じゃなくて教会じゃないか?」
「私達は宗教なんて信じてないから教会じゃないよ」
ハットルグリムス教会に似せて作られた墓標をプル1は複雑な心境で眺める。
「どうしたの?」
その心境を感じ取ったエルピー・プルがそう問うとプル1は苦笑を浮かべ、思いを声にする。
「彼女は私達の中で初めての死者。アレンパパのために戦い、そして散った。不謹慎なのはわかるけど、それが羨ましい。アレンパパのために死に、アレンパパの記憶に残ったんだよ?私達はこれからもアレンパパのために頑張るし、長い人生をアレンパパに捧げることができるけど……多分私達が死んでも最初に死んだプル24ほどアレンパパの記憶に残せないと思うんだ」
「……」
全てはアレンのために。
プルシリーズの本能とも言えるものであるため、アレンの役に立てなくなる死は忌むすべきことだ。
しかしプル24が亡くなってしばらくはあまり負の感情を抱かないアレンの心が負寄りになっていたことを知っているが故に羨んでしまう。
私もそんな存在になりたい。と。
だが、逆の立場なら生きて、アレンの役に立っているプルシリーズを羨ましく思うことが本人もわかってはいるのだが感情とはそう簡単には言う事を効かない。
ニュータイプ能力は感情の制御が過ぎると低下してしまうことため、日頃から意識して抑えないようにしていることも原因の1つだろう。
「それにアレンパパ達が魂の情報化っていうのを研究してるからその内死っていう概念がなくなるかもしれないし」
ララァ・スンの具現化現象やカツ・コバヤシの残留思念という死後にも残る何かを観測することができたことで死という概念を覆すことができるのではないかと身体で唯一完全再現できていない脳の複製と並行して研究中である。
両方成果が出た暁には人間のバックアップが可能となるだろう。
加えてMDによる戦力無人化が進んでいることで更に意味のある死は遠のいていると言っても過言ではない。
「ま、私達以外にはわからないことだけどね。そっちの私でもわかんないでしょうけど」
「わかるわけないじゃん!死ぬことが羨ましいなんて!」
「理解してもらえるなんて思ってないからこれで話は終わり。お墓だけど観光向けの建物だから見せに来ただけだし」
「確かに立派だけど、そういう話をされると……」
「うっかりだったね。もう少し話題を選ばないとダメだよね」
プルシリーズは軍機など話してはいけないことは話さないが、それ以外に関しては口が軽い。
それはやはり世界が狭いこととその狭い世界の人間のほとんどがニュータイプだということに起因する。
簡単にまとめると、お互いが察し合うので空気を読むなんてスキルが必要ないため、他所の人間と話す際には余計な事を話してしまうことが多い。
一応外で仕事をする機会が多いプルシリーズはもう少しマシである。
「じゃあ次はカラオケでも行ってみよー!」
「カラオケって、どこにでもあるだろ……ってそうじゃなくてなんでカラオケなんだよ。別にわざわざ行かなくてもいいだろ」