第五百十三話
「じゃあ、アレンならカミーユさんを治すことができるのか?!」
「診てみないことにはわからんが、共鳴した感覚ではこの世界のカミーユ・ビダンは意識があったのだろう?なら可能性はあるな」
昏睡状態だと共鳴したところで意識がないのだから『引き寄せる』ことができない可能性が高いが、意識があるなら引き寄せることができる。
「ただ、精神的なものなら、だ。脳の損傷なら確率はグッと下がる」
殺さないための処置はできるが脳を復元するのはおそらく永久に不可能だ。せめて損傷前の詳細データがあれば将来的には復元できるだろうが。
「あ、ファさんが言ってたけど脳には異常はないんだってさ。だからこそ治療の目処が立たないらしいんだって」
「それなら治療ができそうだが……治療して欲しいのか?」
「そりゃ、助かるなら助けたいって思うのが人情でしょ」
「私が治療を無償ですると?」
「うっ」
「ちなみに治療費はどれだけ時間が掛かるかによるが、1ヶ月だとこれぐらいか」
「――――」
驚きすぎて声が出ないようだ。
まぁ彼らが生まれたシャングリラなら豪邸を建てられる金額なのだから仕方ないか。スラム街寄りに住んでいたのだからなおのこと。
「ニュータイプ同士の戦いで発生した事象である点を考慮すると半額ぐらいにしてやってもいいが」
「半額になったからって救いになんねーんだよ!一生働いても稼げる金額じゃねぇよ!」
「それならバイトに参加してみるか?内容は治験なんだが給料はいいぞ?」
「死ぬより大変な目に遭いそうなんだけど?!」
それは運次第だな。
いくら私でも副作用を全て予想できるわけではない。
現在ミソロギアに所属している人間は全員私の手によって割合こそ違うが肉体改造を施している。
ただ、うっかりしていたが、通常の人間の実験体が存在しなくなってしまったのだ。……貴重な人的資源を補強もせずに使い続けるのはもったいないから仕方ない。
なので一般人枠として治験に参加してくれるなら優遇するのも当然だ。
「絶対嫌だかんな!」
「残念だ。ならもし捕虜の引き渡しが無事完了したら本人を探してみるとしよう」
(カミーユさん。ごめん!)
地球に資源採取拠点を10箇所ほど設けた。
そこで得た資源は運びやすいように精製し、ガルダ級で打ち上げ施設へ運び、大気圏外で待機する母艦級が受け取り、満載になると交代するように母艦級がミソロギアやコンペイトウへと運び込む。
そのおかげもあって資源は潤沢になりつつある。
特に地球連邦が渋る資源である空気と塩は貯蔵スペースが余りに余っている現状ならいくらあっても困らない。
宇宙に住む者達に首輪を付けておきたいという気持ちは分からなくはないが、だからいつまで経っても反発されるのだと気づけないのだろうか。
他にも天然の宝石や芸術品、幅広い動植物の種子など前の世界ではあまり集めなかった物を収集している。
時系列が違う世界にだけ渡るなら今の蓄えだけで問題ないが、もしかしたら全く違う世界に渡る可能性もある。
古代では貝殻が通貨として用いられたように、その世界で何が価値があるのかなどわからない。
もしかしたら金銀は腐る程あり、石ころ程度の価値しかない世界なんてものも存在するかもしれないので広く資源を集めるようにした結果だ。
ちなみに一部のプルシリーズの間で琥珀となぜか多肉植物が流行している。本人達曰く、可愛い、だそうだ。私にはわからんが気に入ったなら仕方ないのでそれなりの種類を用意している。ただし、量はあまり用意せず、自分達で増やして融通し合うようにさせている。そういう楽しみ方があると学ぶいい機会だ。