第五百十四話
「……見つからないか。やはりこちらのカミーユ・ビダンとは精神状態が違うのだろうな」
集中していた精神を解き放ち、意識を戻して固まった身体を解すようにストレッチをしながらぼやく。
こちらのカミーユ・ビダンを基にして気配を探してみたが、やはり地球は生物の気配が多すぎる上におそらくニュータイプの素質が変質してしまっているため見つけられないのだろう。
となると――
「ファ・ユイリィが面倒を診ているという話だったな。そちらから探してみるか」
内乱の結果こそ違えどカミーユ・ビダンほどファ・ユイリィに変化はないはずなので見つけることができるだろう。
「とはいえ、その前に少し休憩とするか」
地球に存在する生物の膨大な感情を受けながら1人の人間を探すのはさすがに骨が折れる。
ベッドから身を起こし、ヘッドギアを取り、壁、床、天井、全方位サイコミュによって覆われている時渡りを発生させるために用意したセントラルルームから退出する。
「この部屋ができてから滞在時間が増えてハマーン達にクレームを入れられたからな」
時渡りを再現すべく用意されたサイコミュは最新型であるのは当然として、細部まで私専用に調整されている。
そういう事情もあって睡眠中もサイコミュを使ってミソロギアの運営をしている以上はこの部屋が1番都合がいいのだが、『仕事をもっと私達に振れ』というのがハマーン達の主張だが……既に許容量ギリギリだということに気づいていないのだろう。
彼女達のスケジュールは基本私が管理、調整している。
そうでなければ常にアップデートし続けている肉体の限度が分からず、身体を壊すか精神に異常を来すからだ。
もちろん多少の無理では身体は壊れないようにできているが、塵も積もれば、だ。そして1番の問題は精神に異常を来した場合だ。身体は多少壊れようが直せばいいが、精神は治療しても紙が1度折られてしまえば痕ができるように精神は元に戻せるわけではない。
そして誰にも言ったことはないが、1番恐れているのは、精神異常によってニュータイプではなくなることだ。
別に私がニュータイプではないからと捨てるわけではない。だが、今までニュータイプからオールドタイプへと落ちた者はいない。
そうなれば更に病むことになるだろう。そしてこれがプルシリーズだったら……最悪は自死を選ぶ可能性がある。
これが『必要なこと』でそうなったなら自身も周りも受け入れられるだろうが、ただのデスクワークでそうなったとしたら本人は恥、周りも冷たい対応になるだろう。
だからと言ってアップデートを止めるというのは私も彼女達も受け入れられないが。