第五百十五話
「ファ・ユイリィだな」
そうでなければ今までの労力が水の泡と化すのだが、私が人間違いなどするわけがない。
「誰よ貴方?!」
「カミーユ・ビダンの所在を知っているか?」
「っ?!」
私の言葉を聞き終える前に隠し持っていた銃を取り出してこちらに向ける。
その反応はさすが民間人上がりとはいえ、一時的にでも軍属になり、エリート集団のティターンズと戦っていただけのことはある反応速度だ。そしてエゥーゴのエースであったカミーユ・ビダンをなんとしてでも守るという意思を感じる。
だから銃を向けたことは不問としよう。不審者であるのも事実であるし。そもそも撃たれたところでその口径では人形の皮膚を傷つけるだけで、それも修復にさほど時間は掛からない。
「警戒するのはもっともだが、私はジュドー・アーシタに話を聞いてカミーユ・ビダンの治療を行おうと探している」
「カミーユの、治療?ジュドーから?……あ、ジュドー達を誘拐したのは貴方なのね?!」
それを知られていたか、面倒な。
「誘拐とは人聞きの悪い。リィナ・アーシタの治療代金を支払うために同行してもらったに過ぎないし、ビーチャ・オーレグ達には連絡してあるからアーガマには伝わっているはずだ」
……本人達が話さなかったり、アーガマの乗組員が信じなかった可能性はあるが、誘拐したという話しを聞いているのだから報告していないということはないようだが。
「私はミソロギアという組織を率いる者でニュータイプの研究している。その研究の一環としてカミーユ・ビダンの治療(実験体)をしたいと思っている」
「ニュータイプ研究所ッ!」
ニュータイプ研究所へのヘイトの高さには困ったものだ。
社会的には褒められた組織ではないことは百も承知だが、話さないという選択もあるにはあるが、この手の隠し事は後に回せば面倒なことになる。だからと言って一々警戒心を解かなければならないのは面倒で仕方ない。
「信用できない気持ちはわかるがまずは診察だけさせてもらえないだろうか。聞いた話ではニュータイプ同士の戦いで……パプティマス・シロッコとの戦いがきっかけだと聞く。あのカミーユ・ビダンとパプティマス・シロッコという高レベルなニュータイプ同士の戦いで起こった事象に非常に興味があるのだ」
私達とは違う未来から時を遡ってきたシャアとアムロの2人はνガンダムに搭載されたサイコフレーム如きで時渡りを実現させることができた。
パプティマス・シロッコとカミーユ・ビダンの命がけの戦いで何か特別な何かがあると思っても仕方ないだろう。
「……とりあえず本音を隠すつもりがないことはなんとなくわかりました」
どうやら私の誠意が伝わったようで何よりだ。警戒は緩んでいないが。