第五百十六話
「治療費に関しては――」
ファ・ユイリィと交渉していると何やら宇宙で、具体的にはサイド4あたりで結構な数の悪意が蠢いたのを感じた。
一時的に会話をAI任せにして悪意の原因に探りを入れる。
サイド4の廃棄コロニーにネオ・ジオンの部隊が複数集まっている気配を察知した。
しかも、この群れは俗に言う過激派ばかりで悪意が地球に意識を向けているにも関わらず察知するほど放たれたとなれば不穏としか言えない。
実際――
「コロニー落とし、か」
「え?!」
「今判明したがネオ・ジオン軍の一部が暴走してコロニー落としを実行しようとしているようだ」
過激派の言い分は連邦軍の軍備拡張は和平を望む(失笑)ネオ・ジオンへの宣戦布告である、というものだ。
まぁ間違ってはいない。連邦は捕虜交換の場でハマーン閣下を亡き者にする予定なのだから。しかもその実行犯はネオ・ジオンの過激派ということにして。
もっとも過激派はそのことも百も承知であり、そんな汚名を連邦軍に着せられるぐらいなら態勢を整えさせる前にこちらから仕掛けようという気持ちもわからなくはない。
コロニー落としによって打撃を与えることが叶えばネオ・ジオンへの恨みも高まり、ハマーン閣下の威信も、連邦の威信も落ちる。
そして過激派がネオ・ジオンを乗っ取り、新生ネオ・ジオン(仮名)として世界を統治する……という流れを予定しているようだ。
馬鹿げた妄想ではあるが、可能性は0ではない。ただし0%ではあるがな。
「そんな?!他人事みたいに言っているけど貴方も仲間なんでしょ?!なんとかならないの!」
「いや、私達はネオ・ジオンに所属ではない」
「……そうなの?」
「協力関係ではあるが外部組織だ」
とAIがテンプレートで応対する。
こんな事を一々私が応対する手間を掛けるものではない。
「……この話、エゥーゴに知らせてもいいかしら」
「裏を取ったものではないから情報の信憑性は低くていいのなら、な」
私としては自分の感覚で得た情報なので確実なのだが、第3者からすれば妄言にしか思えないだろう。
こんな情報で指導者がいないエゥーゴが動くことはないはずだ。
「それでもコロニー落としの可能性を知らせないなんてことはできないわ」
それはそうだろうな。
「ネオ・ジオンの方にも知らせる予定だからエゥーゴや連邦軍が動く前に粛清する可能性が高いがな」
「……ネオ・ジオンも1枚岩ってわけじゃないのね」
「地球連邦も連邦軍、ティターンズ、エゥーゴと分かれた上に争っていたのだからネオ・ジオンがそうであっても不思議はない」
「それもそうね」
まぁ、組織規模を考えるとネオ・ジオンは派閥争いをしている場合ではないんだが……下地にジオン公国があるからそうなってしまうのだろうが。
…………ふむ、ハマーン閣下にも同時に報告していたが、直に裏が取れ次第、討伐軍を出すことを決定したようだ。
……は?ハマーン閣下直々に出るだと?組織のトップがそう簡単に前線に出るのはどうなんだ。と話したが、どうやら軍内部には過激派ほどではないにしても気性の荒い者が多く、どちらかというと過激派寄りの思想の者が多いため、ここで後ろにいるようでは求心力が落ち、何より討伐軍が分裂する可能性まであるようだ。
それに加え、信用できる者で固めた部隊にいる方が下手な後方にいるより安全と判断したようだ。確かに前の世界でもハマーンやミネバを狙って暗殺者が送られてきたことは結構あったな。まぁプルシリーズに根絶やしにしたが。
そして捕虜引き渡しまでに掃除を終わらせて、和平への一歩としたいようだ。もっともこの程度で連邦軍が止まるとは思っていないようだが。
さすがに軍機に触れるためファ・ユイリィには話さないが、頭が痛い話だ。
ああ、ついでに私達にも従軍して欲しいようだが、それは報酬次第だな。