第五百十七話
「なるほど」
ファ・ユイリィの説得に成功し、この世界のカミーユ・ビダンと対面が叶った。
ベッドに横たわるカミーユ・ビダンは、目を開いているがその瞳は視覚的なにかを見ているわけではないのが見て取れる。
「どう……なの」
「これは――治療をするのは難しいな」
「……そう」
短く、落ち込んだ声が聞こえてくるが、治療が難しいだけで――
「どういう状態なのかは把握できた」
「本当に?!」
「ああ。専門用語を使わず一般人にも分かりやすいように説明するならカミーユは今、精神の変化によって身体と食い違いが起こり、このような状態となっている」
高レベルの操縦技術を持つニュータイプ同士の死闘というのは予想外のことまで引き起こすものだな。
私の知るこの時期のパプティマス・シロッコとカミーユ・ビダンの通常時ではこのような現象を起こすなどありえない。
普通なら互いに共鳴しあってニュータイプ能力が向上する程度だろう。
「これほど思念が混ざることがあるのだな」
感じ取れる思念はパプティマス・シロッコだけのものではない。
フォウ・ムラサメやロザミア・バダム、以前ハヤト・コバヤシに憑いていたカツ・コバヤシ、他にもちらほら知っている者や見知らぬ者達の残留思念が纏わりついている。
おそらくパプティマス・シロッコの最後の思念が呼び水となって他の思念もカミーユ・ビダンに流れ込んでしまったのだろう。
「治療は難しいが、無理やり覚醒させることはできる」
「じゃあ?!」
「だが、それは食い違いを強引に合わせるだけで、治療と言えるものではないな。間違いなく後遺症が残るので下手に突付かない方がいいだろう」
「それじゃあカミーユは……」
「勘違いしているようだが、治療、つまり外部からできることがないだけで自然と回復するだろう。私としては面白くはないが」
「本当に!」
「まともに思考できるようになるまではそれほど時間は掛からないだろう。ただ身体を満足に動かせるようになるには何年か掛かるだろうが、日常生活を送るだけなら2年程度でなんとかなるはずだ。それまでは要介護だがな」
「良かった……カミーユは治るのね。良かった……」
年単位で介護が必要と言っても喜べるのだからカミーユ・ビダンは思われているな。回復まで面倒を見ることが大変であることもわかっているというのに。
私ならとっとと動けるように身体を魔改造するところだ。
「介護が面倒ならこちらで手を打つが?」
四肢にサイコミュを仕込めばカミーユ・ビダンなら意識さえしっかりすれば動かすのは難しくないだろう。
ついでにジオングのように腕を飛ばせるようにするのもいいな。しかし、宇宙ならともかく重力下でどうやって滞空させるかは問題だな。ファンネルのように戦闘時に使うのなら推進し続ければ問題ないが――
「結構です!」
どうやら私の考えが漏れていたようで断固たる意志をもって断られた。残念だ。
「ただ、身の置き方に気をつけた方がいい。ティターンズ残党は思ったより残っているようだし、エゥーゴに守ってもらえるかも怪しい、何より連邦に気をつけた方がいい」
以前の連邦ならニュータイプの存在を軽視し、正常ではないカミーユ・ビダンなど捨て置いただろうが、もう1人のアムロ・レイという存在によってニュータイプの存在を重視するようになった。
実際、ニュータイプの素質がある者達を集める動きが確認されている。
ジュドー・アーシタ達にとって幸いなのは現在アーガマに乗っているビーチャ・オーレグ達がニュータイプであることを察知されていないことだ。もし連邦に知られればどうなるかは容易に想像がつく。
「そんな……」
「なんだったら私達のところで匿ってもいいが?データ取りをさせてもらえるなら治療費、生活費全てこちらで持とう」
「……」
……待遇が良すぎて逆に不審感を与えたようだ。