第五百二十二話
「ハマーン・カーンはザビ家の名を利用し、専横する女郎である!今ここで私、ザビ家の子であるグレミー・トトがジオン再興!そして真の名誉あるザビ家を復興……いや、皆と共に創り上げていこうではないかっ!」
呼応するように兵士達が咆える。
それを聞くだけで士気は十分であることが知れる。
「これは思ったよりも拾い物だったかもしれんな」
ミネバ・ラオ・ザビなどという血筋だけの子供を担ぎ上げることが性に合わず、最近のハマーン・カーンのやり方もそれに影響されたネオ・ジオン軍のあり方も気に入らないラカン・ダカランが、ならば己の力がどこまで通じるか試してみようと思い至ったがさすがに自身が組織を立ち上げるとなると大義もなければ、組織のトップをやりたいわけでもなかった。
となると誰かを担ぎ上げようとなったところちょうどよく野心を抱くグレミー・トトと出会い、ザビ家の血筋であるという大義が転がり込んで来た。
これは天命だろうと思ったラカン・ダカランはグレミー・トトと共に決起することを決意した。
「それにしても忌々しい」
ラカン・ダカラン達のクーデターの準備は勢いに任せてのものではなく、慎重に行ってきた。
ネオ・ジオン内部のザビ家や中立派の切り取り、ネオ・ジオンに属さないジオン残党の取り込み、アナハイム以外の軍需企業との接触、連邦との折衝など動いてはいたが、それでも互いの利をもって漏洩を防いでいた……はずだった。
「処罰こそされなかったが、部隊の半数を異動させられたのは痛いな」
スペース・ウルフ隊の半数ではなく、ラカン・ダカランが率いる艦隊の人員の半数である。
ハマーンによる遅延工作である。
未来の情報というアドバンテージはあっても現実問題として尻尾を掴むまでは裁くことができず、連邦と冷戦状態であるため大きく戦力を落とすこともできないがための苦肉の策だ。
結果的には離反戦力を減らすことはできたが、離反そのものを防ぐことができなかったので片手落ちだが。
「しかし……あのフル・フロンタルとかいう男……あのシャア・アズナブルに匹敵する技量を持っている。やつだけは気をつけねばならん。あの人形達では相手にもならんだろう」
人形達というのはプルシリーズのことである。
ベテランに勝つ技量こそ備えてあるが、エース相手となると心許なく、実際ラカン・ダカランとの模擬戦では1対複数でも負けることはまずない。
つまり、貴重な戦力には違いないが、当てるのを間違えば簡単に駒を落としてしまう。
「人形は人形なりに使い道がある。コロニー落としを成功させたとしても連邦が黙って支配を飲むとは思えんからな」
少ない戦力なのだから効率よく使わないと破滅しか待っていないと考えているが、その見通しが正しいものなのか。
ハマーンなら甘い、と。アレンなら愚かな、と断じただろう。
結局のところラカン・ダカラン達指導者層は分かりやすい軍事的強さでしか物事を測れていない。
軍事的に勝ったところでコロニー落とし再度行ったグレミー・トトの軍へと抱く地球に住む者達のそれはジオン公国へと向けるそれと何ら変わりない。
万が一連邦軍に勝ったとしても、地球から全人類が宇宙へと移住させることができたとしても、その憎悪は消えず、破滅しか待っていない。
軍事政権が外敵も存在せずに長続きするわけがないのだから。