第五百二十三話
「普通に考えればハマーン閣下が有利なはずだが……」
両陣営の艦隊が並び、艦からは次々とMS部隊が出撃していく。
数はネオ・ジオン軍の方が多く、練度と機体は全体で見れば反乱軍と言ったところか。
反乱軍は過激派ということもあって武断派が多い。そして合流したジオン残党はここまで独自に戦ってきた信念を持つか逃げ場がない者達だ。連携は劣るかもしれないが経験と技術は勝っている者が多い。
加えて反乱軍が武断派であることから戦争継続の目が多いため、技術部の協力者が多い。仮初の平和よりも戦時の方が融通が効くから流れたのだろう。それによってネオ・ジオン軍のMSよりも反乱軍の方が優れている。
「まぁ試作機や少数生産のものが多いようだが」
軍全体で主導していた量産タイプの最新機は国力の差で生産数が多いネオ・ジオン軍が上回り、研究開発の関係で軍よりも技術部に依存する側面が強い試作機などが反乱軍に多い。
だからこそ観測しているMSがバラバラで、人間と同じで寄せ集めであることを示しているかのようだ。
「コロニー落としの阻止限界点までまだまだ距離があるので防衛しなくてはならな反乱軍が有利……いや、コロニーを守る必要はないのか?」
連邦が手出ししてこないというならもう1度コロニー落としを仕掛け、もし手を出してきたら決戦で決着をつければいいと考えているようだ。
反乱軍にそれほどの余裕があるとは思えないが、反乱軍はそれが可能だと思っているようだ。
「それにしてもハンマ・ハンマの派生機が多いな」
キュベレイを量産していたのは知っていたが、どうやらハンマ・ハンマも量産していたようだ。
そしてそのパイロットはプルシリーズで――
「ニュータイプとしての素質が低い個体を準サイコミュのハンマ・ハンマで運用するつもりか」
準サイコミュがオールドタイプにオールレンジ攻撃を可能にするために開発されたものだが、ニュータイプが使えないわけではないし、この世界のプルシリーズも肉体強化はされているので一般兵より優れているので能力だけをみれば正しい採用だろう。
ただ――
「促成栽培のプルシリーズの最大の弱点である精神強度を考慮しなければ、だがな」
いくら才能乏しいプルシリーズとはいえ、ニュータイプであるには違いない。
死を量産する大きな戦場では様々な感情が流れ込み、精神が弱い者は最悪ショック死する可能性がある。
研究者はさすがにわかっているだろうが軍政というのは軍の発言が優先される。そして第1次決戦と言える今戦いにおいて少しでも戦力が求められ、徴収されたのだろう。
「しかしハンマ・ハンマは製造費が馬鹿にならないものだったはずだが?」
この世界でも前の世界でもハンマ・ハンマはそのコストと機体の欠陥によって少数生産に留まった。
しかし反乱軍はそれを量産している。どこでそんな資金と資源を得たのやら。
「それにドーベン・ウルフまであるとは……ナナイ・ミゲルはあちら側なのか。いや、シャアにご嫉心なはずだからデータを抜き取られたのか」
この世界ではナタリー・ビアンキはアクシズが辺境にあった頃に死亡しているのでシャアは独り身である。嫉妬に駆られて敵に情報を流すなどということはない。
この世界の情勢を考えると……アナハイムか。
「軍需産業が力を持つとろくでもないことになる典型か。私にとってはどうでもいいが」