第五百二十四話
「本当に前線に出るのか。ハマーン」
「もちろんだ。私は宰相であることを示し続けねばならん」
フル・フロンタルがそう確認するとハマーンは躊躇なく応える。
宰相として前線で戦う義務など本来はない、しかし、主君が幼年であることから後ろに控えているだけでは傀儡とし、宰相として専横していると見られる。
その上、ハマーンは若い女で、軍政色が強いとなるとどうしても男が多くなるために嘗められやすい。故にハマーン自身も命を賭け、武を以て導いてきた。
フル・フロンタルはグリプスでそれを体験しているが、それでもなお問うたのはやはり前線に最高責任者が立つというのはリスキーであるからだ。
どの口がっ?!と言いたくなるほどの棚上げである。
「では、先に行かせてもらう。……フル・フロンタル。スパシ・ジャジャ、出るぞ」
フル・フロンタル専用としてアレンの手によって作られたR・ジャジャ……を更に改良されたため、原型とは違い過ぎてスパシ(古代ギリシア語で剣)・ジャジャと名付けられ、バリアブル・シールドを撤去し、肩部のミサイルは外されてほぼギャンと変わりない姿となった赤く染められたその機体がカタパルトによって宙へと打ち出される。
「このキュベレイがある限り負けはせんさ」
スパシ・ジャジャとは反対にデザインにほぼ変化が見られないハマーン専用に改良されたキュベレイはそのままキュベレイの名を継承した。
その変化の乏しさとは裏腹に性能は大きく変化している。
防御性能こそ変わらないが、機動性、運動性、本体の出力もビーム出力も大体において1.5倍ほど向上している。
元々キュベレイはジ・OやZガンダムには純粋なスペックとしては劣っているが高性能なサイコミュで補うことで今まで前線に立つことができていた。
しかし、今回の改良で新型と言えるほどの性能を実現。
分かりやすい比較でいうとキュベレイ本体はサイコフレームとフィン・ファンネルを除くνガンダム本体と同等まで引き上げられている。
この時代の大型化したMSと比べると出力という面では劣るが、バインダーやファンネルコンテナがある大きいとはいえ、本体のサイズは通常のMSとそう変わらない程度のサイズでこの性能は次世代機か、下手をすると次々世代の性能を持つことになる。
ただし、アレンが協力したのはMSのベースとなっている部分であり、サイコミュ周辺の技術は提供していないため、キュベレイの最大の武器であるファンネルに関しては既存のものと変わりなかったりする。
「ハマーン・カーン。キュベレイ、出るぞ」
『ご武運を』