第五百二十五話
「フフフッ、アクシズに叩きつけられた時はこれで私の戦いも終わりだと思ったが……悪運はまだ私を解放してくれんらしい」
フル・フロンタルは自嘲するように口角を上げると共に操縦桿を握り直す。
「そして己の愚かさには嫌気が差す」
前の世界では確かな志があった。
しかし、世界が変わり、文字通り天涯孤独で異物となった己にはその志を保つことができなかった。
「何もできないのなら死んでおけばいいものを……こうして戦うことで無様に生きながらえようとは」
と言いつつ自嘲していた笑いのはずが高揚した笑みへと変化していく。
つまり理性と感情は食い違っているということだ。
「ああ、本当に愚かだ。戦場を楽しみにしてしまうなど」
外的要因がなくなり、残ったのは己の身体1つとなったことで若い頃……ザビ家への復讐心があったとはいえ、柵などなく、一パイロットとして戦場を駆けていたあの頃が1番自由だったあの頃のようだ。
一年戦争が終わった後も前線で戦ってはいたが部隊どころか軍や派閥を率いる立場であったため自由などなく、足枷をしたような状態だったため窮屈だった。
「最低でもハマーンに恥をかかせないようにせねばな」
討伐当初、艦隊の1つの指揮を任せる予定だった。
しかしハマーンがフル・フロンタルの気持ちを察して、MS部隊の指揮を任せると同時に前線における全MS部隊の裁量権を与えられた。
つまり、フル・フロンタルが戦いやすいように戦線を自由にすることができる権限を与えたのだ。
普通ならありえない采配であるが、フル・フロンタルがこれまでに示した技量とハマーンの権力によって通したことで実現した。
『栄光あるネオ・ジオン兵士達よ』
ハマーンの声が全MSのコクピットに響く。
『これより戦うは私利私欲のため、正統なる後継者であるミネバ様に歯向かう賊である。ゆえに多くは語らぬ。全てを灰燼に帰せしめよ!』
短い演説ながらネオ・ジオン軍が高揚させ――MSが一段加速する。
反乱軍もそれに応えるかのように加速。
ここに、ザビ家を名乗る組織同士の戦いが始まる。