第五百二十六話
「始まったか……そして開幕早々に痛い損害が出ているな。反乱軍を嘗めているからこういうことになる」
未知の兵器に対しての被害なら百歩譲るが、開幕早々に量産型キュベレイのファンネルに撃墜されている。
ハマーン閣下は事前に対策はしたと言っていたが、学問なき経験は、経験なき学問に勝るはまさにその通り、いくらシミュレータで対策したと言っても、な。
とは言ってもハマーン閣下直々に訓練に参加するわけにもいかんのだろう……これだから真っ当な組織は。
「しかし……相変わらず、いや、むしろ前の世界のシャアよりも技量は上のようだな」
銃剣でガザDを、ビームサーベルで鹵獲した使っているのだろうマラサイを斬り裂き、流れるようにザクIIIを蹴り飛ばすスパシ・ジャジャの姿のデータ取りを行いながら思う。
というかザクIIIなんて重量のあるものを蹴り飛ばすとは、な。
本来なら関節に負担が掛かるのはもちろんだが、蹴ることはできても蹴り飛ばすことはスパシ・ジャジャ単体の力では不可能だ。敵の動きを読み、敵自身の力を利用し、そして狙った角度、力で蹴らなければ蹴り飛ばすどころか足が砕けてしまうのだが、その上にそんな狙った場所を蹴るなどというモーションプログラムが組まれているわけもないので当然マニュアル操作でそれをやってのけているというのだから私を化け物扱いしているが、MSの操縦に関しては十分ヤツも化け物だ。
私やプルシリーズは同じことができるが、それは肉体改造による純然たる身体能力の差とサイコミュコントロールで機体そのものを脳波で動かすことができるからであってマニュアル操作でそんな曲芸のようなことはできない。
ちなみにハマーンとイリア、カミーユはできるだろうがな。いや、プルとプル2ならあるいは……あの2人の操縦技術は他のプルシリーズとは格が違うからな。
「フル・フロンタルが突出し過ぎてこのままだと包囲されては万事休す……と通常ならそうなるはずだが――」
それほど甘いフル・フロンタルではない。
「この世界のプルシリーズもエースもおらず、準エースもいないとなれば、ヤツを止めるのは容易ではない」
確か……そう、当たらなければどうということはない、だったか。なんとも傲慢な台詞だが、それを体現しているのだから傲慢とは言えないな。
もっとも目立つ者がいないからこそこのような行動を取ったようだがな。
さすがにエース級やプルシリーズを相手にしながら包囲されればどうにもなるまい……多分。
私のプルシリーズに囲まれても満足以上の戦闘データ収集ができるほどしぶとく生き残っていたぐらいだ。エース級はともかくこの世界のプルシリーズに囲まれたぐらいでどうにかなるかは怪しい。
それに――
「フル・フロンタルにばかり気を取られていては、な」
いくら実戦経験が乏しいネオ・ジオン軍とはいえ、フル・フロンタルにばかり注意を向ける敵を見逃すわけもなく、攻勢を強めて形勢が一気に傾く。
「これがジオン軍の理想とするドクトリンの体現か」
連邦に数で劣るジオン軍が求めた理想だろう。
まぁ今は数にそれほど差がない上に同属同士だがな。
しかし、こんなドクトリンはエースへの負担が大きすぎる。
現実になったとしても耐えられるのは私が知る限りではフル・フロンタルやハマーン・カーン、アムロ・レイ、カミーユと本当にごく少数ぐらいで、他はその掛かる負担に押し潰されることになる可能性が高いからまず長続きしない。