第五百二十七話
「さすがシャア――フル・フロンタルだ。私も負けてはおれんな」
ゆくぞ、キュベレイ。
デザインはほぼ変わっていないにも関わらず、自身の思い描く通りに反応する機体に戦場だというのについ嬉しくなる。
MSを……キュベレイに愛着を持っていたなんて自分でも知らなかった。
私にとってMSは、命を繋ぐものでもあったが、それよりも苦い思い出の方があまりにも多い。
もうフラナガン研究所に入れられてから9年も経つ、最近は慣れたが実験に付き合わされるのは嫌で嫌で仕方なかった。
同時にキュベレイ開発に携わったのも長く、共にティターンズ、エゥーゴと激戦を潜り抜けてきた存在でもある。
「ジオンの生き残りがザクにこだわりを持つ気持ちが今になってわかるとは……皮肉だな」
操縦系が違うことで乗りづらいという意見は理解していたが、思いなどを軽視していたのだろう。
「できれば連邦であってほしかったが……新しいキュベレイの力。魅せてやろう。その生命を代償に、な!」
今まで以上に感じる殺気に訓練の成果を実感しつつ、腕を向けてビームを放つ。
ライフルよりも動作が小さく、そして俊敏性の向上により、今までのキュベレイでもほぼ敵がいなかったのだから今のキュベレイなら――
「遅れをとるわけがない」
思い描いた通り、4機のザクIIIの頭部が消失という結果に満足するが――
「やはり火力の無さがネックだな。ファンネルッ!」
機体スペックは最強クラスとなったが、問題は武装に関しては旧世代のままであることだ。
キュベレイというわかりやすい目標であるために数少ないザクIIIという手札をこちらに振ってきたのだろう。それにザクIIIの装甲は私が知るものならばキュベレイのビームでは貫通は難しく、2、3発は耐えられてしまう。
つまりビームガンよりも低出力なファンネルでは当然耐えられてしまうわけだが、それは――
「狙う場所次第だ」
狙うは関節部とスラスター。特にスラスターが破壊されれば宇宙では命取りだ。
そして結果はすぐに私の望む通りになった――が。
「チッ、やはり運用が難しいな」
武装が旧式であるというのはファンネルも含む。
実は1番問題が発生しているのはこのファンネルだ。
戦闘中は速度を落とすことは稀なのだが、問題は機動力が向上したキュベレイとファンネルの機動力が伴わず、ファンネルの回収に己から向かうか、無駄な機動をして追いつく時間を作るかしなくてはならない。
以前のキュベレイでも多少はその傾向はあったが、今のキュベレイでは問題になるぐらいには差が生まれてしまっている。
「まぁ重量級のMSでなければ問題はないが……」
数で押そうとガザDやガ・ゾウムが集まってきたのでファンネルを周囲に展開し――
「塵と化せ」
ニュータイプとしてレベルが上がり、同時に扱えるファンネルが増えたそれで斉射すれば瞬く間にデブリとなる。
「オールレンジで運用するよりも砲台とした方がいいか?しかし、アレ相手にそんな悠長な扱い方でどうにかなるか?」
モニターにまだ小さくだが映し出される、本来私の機体として開発されたクィン・マンサの姿に気を引き締め直す。