第五百二十九話
「そういえばジオン系同士の戦いは初めて見るな」
模擬戦ならいくらでも見たし、私達が反ハマーン派や過激派を潰して回っていたが、私達はジオン系か?と考えると首を傾げるぐらいには逸脱しているのは自覚しているのでノーカウントだ。
そうして芽を摘みに摘んだ結果、ほとんどジオン同士での争いなんてなかった。強いて言えばまだアクシズが辺境だった時に起こったタカ派のクーデターぐらいだが、あれにはノータッチなので映像データでしか知らない。
「ドクトリンが同じで噛み合いそうで噛み合わず戦いづらそうだ」
互いの手札がほぼわかっている上に、基本となる戦術も、それに対応する策も、更にその対応策の対応策なども同じである。
「無駄に右往左往しているのは練度の無さだな」
MSは開発された頃こそ万能兵器とされていたが、今となっては火力支援や一撃離脱、近接戦闘特化など先鋭化してきたことから三竦みというほどではないが得意不得意が存在するようにあった。それを取り入れたドクトリンに沿って動いているが、経験の少ない兵士はそれを意識し過ぎて悪手となっているが互いに悪手を打ち続けるという滑稽で、プルシリーズに即興ダンスをさせた方がまだ美しいぞ。(ちなみに本当にさせると武道の型のような感じになるか子供のお遊戯みたいになる)
「だからこそ、反乱軍が優勢、か」
反乱軍はジオン残党を多く存在し、MSパイロットとしては最古参であり、技量はともかく、実戦経験は豊富であり、連邦という常に数が劣る状態でしか戦えなかった彼らはほぼ同数の戦力の現状は楽な戦場だろう。ドクトリン?そんなの関係ねぇなぁ!!と言わんばかりにネオ・ジオン軍の連携の綻びから斬り裂き、反乱軍同士の連携も上手く行っていないため被害こそ少ないが陣形が乱れが酷くなっていく。
このままだと致命傷となるだろう。
「砲手、新人の者に交代し、私が指示するMSを狙え」
「いいのですか。そのようなことをして」
確かにネオ・ジオン軍どころかハマーン閣下にすら通していない行動だな。
「連絡することはできるが……今はそれどころではなさそうだからな」
ハマーン閣下は、ラカン・ダカランが率いているドーベン・ウルフが続いていた部隊を抑え込んでしまい、孤立状態で激戦を繰り広げながら、前線のMS部隊の指揮を執っている。
「むぅ、この世界の私は私より強い……」
その奮闘ぶりを見てハマーンが呟く。
確かに……身体能力やニュータイプとしてはハマーンの方が優れているが、パイロット、前線指揮官としては間違いなくハマーン閣下が優れている。
「これはもっと鍛えなくちゃ」(これじゃアレンのせいで弱いみたいじゃない?!絶対私が頼り過ぎちゃってるせいなのに?!)
「だからと言ってネオ・ジオン軍に連絡をしようにも別組織扱いになっていることをお気に召さないようだしな」
というよりも先程からチラホラとネオ・ジオン軍の艦隊から殺気を感じる。
これは反乱軍によるスパイなどではなく、単純に私達が開幕から何もせず、それこそ艦砲射撃すらもしていないことが起因している。
まぁ、死闘を繰り広げる中で高みの見物をしている部隊が、しかも精強であることがわかっているのだから気持ちはわからんでもない。
「そういうこともあっていくらか手出ししておこうと考えたわけだ。戦後に独断行動で問題になるならそれはそれでいい。ネオ・ジオンが勝ったということだからな」
負けたなら問題になる以前の話になるだろう。
まぁ今ハマーン閣下が討たれたらこちらに牙を剥く可能性が高いが。
「お考え理解いたしました。若いナンバーにいい経験になるでしょう」
母艦級の艦長役のプルシリーズが思念を飛ばすと同時にこちらもマーカーを付けるとすぐに主砲が火を吹く。
次々とマーカーをつけていき、それに反応して主砲がついて回る。
ネオ・ジオン軍の陣形を崩していたベテランのジオン残党を集中的に狙うが、さすがベテランだ。始めの2機は命中し、撃破したが、その後は自分達が狙われていると判断して回避行動に専念されて撃墜はなくなった。まぁ手足は溶けていたので上々としておこう。
さすがに新人で主砲の運動性とこの距離ではこの程度が限度か。
「では次は私は手を出さないのでこのまま続けよ」
多少の戦果は得たのでこれからは牽制程度でいいだろう。
それに――
「マシュマー・セロがラカン・ダカランと戦う、か」
ハマーン閣下の救出にマシュマー・セロが動き、それを阻止するべくラカン・ダカランが立ちふさがる。