第五百三十話
「ハマーン様を裏切るとは畜生にも劣る外道め!このマシュマー・セロが成敗してくれる!!」
「卵の殻を被ったひよこの分際で宣(のたま)うな!小僧!」
「イリア!親衛隊のフォローを頼む!」
「了解しました」
マシュマー・セロが操るザクIII改とラカン・ダカランが操るドーベン・ウルフが激突する。
ビームとミサイルが交差すること数度。
「「チィ」」
奇遇にも双方同時に舌打ちする。
「ラカンはMSに慣れていないようなのに押しきれんか?!」
「ひよっこの分際で随分強くなったものだな!」
ラカン・ダカランはつい先日まで乗っていたのは重MSとしては同じではあるが武装がシンプルであるドライセンと武装数が多く、癖が強いドーベン・ウルフでは何もかもが違う。
もちろんラカン・ダカランは上手く使ってはいるが、使いこなせているかというのは別問題である。一般兵相手なら気にならないがエース級を相手ではその差が大きく影響する。
対してマシュマー・セロは強化を施されたことによって精神的ムラが減り(強化後の方が隙が減ったという少ない例)、ニュータイプとなり、専用のバイオセンサーを搭載しているザクIII改はドーベン・ウルフとは対極と言っていいほどシンプルな武装で構成されているため習熟にそれほど必要はなかった。唯一ザクIII改はその加速力と機動力は一般人には扱いづらいものではあるが、強化された本人の希望で改造されたものである以上、問題になるわけもない。
つまり、技量そのものはラカン・ダカランの方が優れているが機体に不慣れであり、マシュマー・セロは腕は劣るが専用に調整してMSを十全に活用している拮抗している。いや、わずかにマシュマー・セロが優勢か。
ドーベン・ウルフは射撃火力重視の機体であり、その火力の源と言える武装はその火力に比例するように取り回しが悪く、1対1性能はインコムと有線アームに依存することが多い。だが、その準サイコミュ兵器は天然ニュータイプではないとはいえ、ニュータイプのマシュマー・セロとの相性が悪かった。
そもそもニュータイプが多く敵に存在することが判明した段階でマシュマー・セロの訓練はハマーンの操るキュベレイがシミュレーションの相手となっていた。
ハマーンが操る無線で自由に飛び回るファンネルと比べると有線で射程も行動パターンも知れているために準サイコミュは有効打とはなりにくい。
そしてザクIII改の最大の特徴とも言うべき加速力と機動力は自分の得意な、敵の不得意な間合いで戦闘することができる。
「スペースウルフ隊は援護しろ!すぐ片付けるぞ」
「何?!ハマーン様を裏切り、その上騎士道すらも逸したか?!」
「フン、多少マシになったとはいえ、やはりひよっこに過ぎんなっ!」