第五百三十六話
「視える視える視える――視える!」
眼球はまるで眼振のように忙しなく動き続け、視える未来と現実を整合させていく姿を確認していく。
サイコフレーム搭載によって感覚が広がり、情報量が増えたが、キュベレイのスペックそのものが上昇しているため、その情報量だけでは判別がつかないことが増え、やはり視覚による情報も必要である。命の賭ける戦場においては、特に。
プルシリーズはファンネルからの包囲網の次はMS……特にハンマ・ハンマで包囲網を構築するように展開するが、行動を制限するビームは舞うように避けられ、進む速度が落ちず思うように包囲することが満足にできない。
「武装を増やせば強いとでも考えているのか……如何にもオールドタイプや技術屋が考えそうなことだな」
重たそうな量産型キュベレイをみて呆れるハマーン。
背部に増設されたビームキャノンと明らかにキュベレイよりも搭載基数が多いファンネル。
ニュータイプの最大の特徴となったファンネルを十全に使いたいという意図はわかるが、猿知恵程度にしかハマーンは感じられなかった。
量産型キュベレイは以前までのキュベレイと同水準である。そうなるとキャノンやファンネルを増やせばサイコフレームも搭載していないキュベレイではバランスが悪くなる。そうでなければ最初からハマーンのキュベレイに追加武装を施している。
「それに――感じるぞ。貴様達の思考が――思いが――考えが――これがサイコフレームの力か」
プルシリーズが苦戦している最大の原因がこれにあった。
もとより位置を感じ取れ、更には思考が読めるようになったことで戦い方を変えた……いや、対多数を相手にする時の戦い方というべきだろう。
それは射線管理だ。
プルシリーズは駒として訓練されていて、プルシリーズも互いに駒だと認識させるように訓練されている。
しかし、それはオールドタイプの……いや、軍人の思い込みにしか過ぎない。
ニュータイプのプルシリーズは声による会話などしなくても感情は共有できるのだ。そうなると自ずと姉妹や仲間という意識が生まれる。
唯一例外がサンプルとして早くから活動していたため、関わりが他のプルシリーズよりも薄いエルピー・プル、プルツーだが、その分ニュータイプとして優れているので短時間で共有することができる。
洗脳や薬物でコントロールしたところで、強化人間のように不安定にしないレベルでは限度があるのだ。
そして高出力であるがゆえに貫通力の高いビームばかりが主流の現在、1機や2機のMSは簡単に貫通する。
そして今回は犠牲を厭わず、ハマーンを撃墜することがグレミー直々に命令されている。
つまり、本来であれば味方ごとハマーンを始末することが最適解である。
しかし――
「フンッ、ニュータイプが心を通わす存在なのではなく、オールドタイプが心を鈍感にし過ぎなのだよ」
無関係な民間人を殺すことに抵抗があるのに、信頼して背中を任せている味方を殺すことに抵抗がないなどと都合のいい妄想でしかない。
「もっとも、それが実現していたなら危なかったが、な」
射線管理で1番効果を発揮しているのはキュベレイやハンマ・ハンマを盾にすることでクィン・マンサの火力を制限していることだった。
なにせキュベレイは実弾装備は……一応あるにはあるが、ないよりはマシで、ないに等しい。
Iフィールドを装備ししているクィン・マンサへの対抗手段がそれとIフィールド内でビームサーベルを振るうという手数の少なさだ。
「できればもう少し数を減らしてからでないとキツイだろうな」
ハンマ・ハンマを5機撃破、2機を中破、量産型キュベレイを2機を撃破、更に2機を中破させたが、それでも戦力差は圧倒的だ。キルレシオ的には圧倒的だが、総帥が命を張っているのでキルレシオなんて些末でしかない。」