第五百三十七話
「くっ、早くハマーンの援護をせねばならんというのに――」
フル・フロンタルはさすがに焦っていた。
ハマーンの腕前に不安を抱いたことはない。
自分ですら安定して勝利を手にできる相手ではないのだから並みの敵に遅れを取るわけがない。
しかし、相手がニュータイプ部隊……それも一年戦争のキシリア・ザビが設立したような少数ではなく、数十人規模のそれを相手では焦りが生まれるのも当然と言えた。
それに比べ自身に降りかかる火の粉は吹けば消えるようなものだが――
「数だけは――多い!それに邪魔をするタイミングだけは理解しているな」
包囲に穴を空けて抜け出そうとすると攻撃を仕掛け、速度を落とされ、穴は修復される。
「ファンネルッ!」
スパシ・ジャジャの基本武装であるライフルとサーベル以外に用意されている唯一の武装であるファンネル。
サイコフレームによって分散化、小型化したことで通常のMSサイズでもファンネルを搭載することができるようになった。だが――
「チィ、数が少ないと使い捨てできんのは面倒だなっ」
スパシ・ジャジャはサイズをMSの範疇に収め、運動性や追従性を優先したためファンネルは2基しか搭載していない。
「MSそのものに不満はないのだが、な」
未来であるはずのサザビーよりも乗り心地がよく、これならアムロが操るνガンダムにも勝てるかもしれないと思えるほどだ。
サザビーと比べると武装が少ないことがネックではあるが、アムロやニュータイプと戦う上で武装の多さはそれほど影響しない。あればあるでいいが、武装が多いとその分だけ枷も増えるのだから。
しかし、敵がオールドタイプの一般兵となれば話が変わり、武装の数は殲滅力に繋がる。
そのせいで包囲網を突破できないでいるのだ。
「だが、それもそろそろ限界のようだがな」
包囲する戦力が足りなくなったということではない。
それは一言で表すと、恐怖、である。
いくらエースだったとしても1機相手になんの損傷もなく30機以上のMSに囲まれて一方的に撃破し続けることができるというのか。
命の代償で得たものがただの時間稼ぎ、足止め程度でしかない現実を叩きつけられ、士気を維持できるわけがない。