第五百三十九話
「ちょこまかと逃げるんじゃない!これでどうだ!!」
クィン・マンサから放たれるファンネル。
本来物珍しいファンネルだが、この戦場において当たり前の兵器と化しているそれは今更な手段に思えるが――
「なかなかやるな。プルツー」
他のプルシリーズは手出しを控え、プルツーのファンネルのみがハマーンを攻撃する。
ここまで数で押して撃墜どころか損傷すら与えることもできていない以上、質で攻める方向に切り替えたのだ。
ファンネルは操縦者の意思一つで動きが変化する兵器であるため、同じファンネルでも差が生まれる。そうなるとどうしても能力差から来る連携のズレが発生し、それが隙となり、邪魔となる。
それならば質の高い単独、つまりプルツーのみで対応してみることとなったのだ。
それでも他のプルシリーズは他に向かわず、ハマーンを包囲して逃さず、隙あらば攻撃を仕掛ける姿勢でいる。
「息をつく暇はできたが、緊張感は増したな」
ビームの数が減ったことで身体的負担は少なくなったのは事実だが、現状が良くなった、とはとても言えるものではなかった。
攻撃密度が高かった総攻撃は身体にきつくとも危機感を抱く、致命傷となる攻撃は当たる気がしなかったが、プルツーだけで対応するようになった今は鋭さがあり、油断をすると良くて損傷、悪くて撃墜という未来が視えている。
ハマーンがそう視えるほどにプルツーとクィン・マンサは脅威なのだ。
「幸いなのはファンネルがキュベレイのものと変わらないことだ、な!」
どんなに洗練された操作を行っても基本スペックに変わりはない以上は限度がある。そして現状のファンネルの扱いは既に上限に達していると言っても過言ではないハマーンであるから未熟なプルシリーズの操作よりも自身の運用に似ているため予測がしやすい。
「次はファンネルを開発させるとしよう」
キュベレイの速度に追いつけないファンネルでは戦闘をしながら回収することができず、速度を落とす必要があると言ったが――
「その点はクィン・マンサは羨ましいな」
速度を落としたところでビーム兵器を防ぐIフィールド、多少のミサイルなどものともしない装甲、巨体に見合わぬ加速性、これらが揃っているためクィン・マンサはファンネルを回収するのに支障が少ないのだ。
「だが、そろそろこちらの番と行こうか」
「なんだ!逃げ回るのをやめるのか。なら落とさせてもらうよ」
避けることを重視していたハマーンが方針を変え、急にプルツーに向かって加速する。
ハマーンは援軍が来るまでこのまま凌ごうと思っていた。しかし、ニュータイプの射撃を躱し続けた結果、回避のために切り返しで推進剤の消耗が大きく、時間を稼いで援軍を待つなどという悠長なことは言っていたら推進剤切れで撃墜されずともデブリの仲間入りする未来しかない。
「その前にお前を討つとしよう。お前さえいなければ他はどうとでもなる!」
「フンッ、私達を見くびってもらっては困るな!」