第五百四十三話
『ハマーンの気配が!』
『『『ハマーン様!』』』
『『『な、何これ?!』』』
フル・フロンタルやマシュマーなどのニュータイプやこの世界のプルシリーズなどから驚きの声が届く。
その気持ちは理解できる。
「ハマーン閣下まであの発光現象を引き起こすか。感覚からするとまだ届かないと思っていたが……それにまさかこのような現象まで起こすとは」
発光現象はミノフスキー粒子に干渉することでビームを防ぐことは立証済みではある。だが、今ハマーン閣下が起こしている現象は――
「分身……とでも表現するか?」
今、私の目には紫色に輝くハマーン閣下のキュベレイが10機に視えている。
「これはニュータイプにはなかなか面倒な代物だな」
正体は既にわかっている。
ファンネルがキュベレイに視えているのだ。
本来ならファンネルは小型ゆえのステルス性も強みとなる。その観点からいえば今のキュベレイへと変わったファンネルはデメリットと言える。だが、問題は――
「その分身からもハマーン閣下と同等のプレッシャーが放たれているということか」
ファンネルからも微弱ながら操縦者の意志が漏れているが、この現象は本体とほぼ同量のものが発せられている。
その意志がニュータイプにキュベレイを視せている。つまり、分身と言える現象はニュータイプにしか視えておらず、オールドタイプには何ら効果がないだろう。
「とはいえ普通なら分身したところで本体など動きを見ればわかるものだが――ファンネルそのものの動きが変わらなければ、の話だが」
ファンネルはミソロギア以外のものだと行動パターンが限られているが、今ハマーン閣下のファンネルはミソロギアで使うファンネルと同等の機動を行っている。そうなれば本物が見分けがつかない……まぁ私はわかるがな。
「対ニュータイプとしてはなかなかのものだな」
そもそもハマーン閣下がオールドタイプに負けることなど万に一つであるのだからそれでいいと言えばそうだが、現状に適した効果を発揮しているがなぜああなったのかは気になる。
「ということで援護を本格的にしよう。レナスを20機緊急出撃、フル・フロンタルを抑えている部隊を抑える。主砲はハマーン閣下のフォローだ。今までとは違って本気でやるように伝えろ」
「了解しました!」
まぁ本格的と言うにはささやかな援護だけど、これで好転するだろう。
何より――
「あまり時間がないはずだからな」
ハマーン閣下の発光現象でこの世界のプルシリーズをまとめて相手しても善戦、むしろ有利に進み始めているが、問題はその発光現象はハマーン閣下自身はともかくとしてキュベレイやファンネルはおそらくそう長く保たないだろう。
私のサイコミュやファンネルならあの程度の無理ならこの反乱の決着まで保つだろうが、あれらは元々そんな動きを想定していないのだからおそらくこの世界のプルシリーズを撃破する前に……プルツーを撃破したぐらいで限界を迎えることになる。
「ハマーン閣下の健闘賞ということにしておくとしよう」
良いデータが手に入った。トレーニングメニューを渡したとはいえ、よく鍛えたものだと思っていたし、発光現象の新たな可能性まで示したのだからこの程度の手助けぐらい吝かではない。
「レナス緊急出撃!予定座標到達まで30秒!」
緊急出撃は通常は機体に負荷を掛けない程度の加速に収めているカタパルトの出力を打ち出す機体が耐えられるギリギリまで出力を高めて打ち出すというものだ。故に出撃するたびに整備しなければならないなどという可愛いものではなく、戦闘に支障を来して帰還叶えばジャンク品となるほどの負荷であるために常用しない、本当に緊急の名にふさわしいものだ。
「反乱を収めればぜひともハマーン閣下にはご協力してもらわなければ」
後に、戦闘中のハマーンはプルツー達の死闘よりも恐ろしい何かを感じ取った、と側近に語ったという。