第五百四十七話
「ハマーンから事前に聞いていたが厄介な敵だな」
技術は拙いとは言わないが未熟、しかし、それを補う身体能力の高さと勘の冴えだ。
早々に3機落とせたが、そのせいで警戒されて次が続かない。
子供のような素直さで対応される。――いや、事実子供なのだったな。
放たれる感情が子供特有の真っ直ぐさに多少気分が削がれるが、戦力差を考慮すればそれどころではない。
「エネルギー切れを気にしなくていいのは幸いだな」
ハマーンと合流する前にミソロギアのMSからEパックを受け取っておいて助かった。ただ、奴らが高速な上に遠慮なく投げて寄越し、それがコクピット直撃コースだったので少々肝が冷えたが。
「戦況も変化してきたな」
私がハマーンと合流したことで反乱軍の動きも変化した。
マシュマーやキャラ・スーンと戦っていたスペース・ウルフ隊は数が減ったことで後退しつつも足止めをしていたが、それをやめてこちら向かってきているのを確認できる。奴らはこのニュータイプ部隊よりも経験が豊富で厄介だ。
しかし、同じようにマシュマーやキャラ・スーン、イリア・パゾム、他にも親衛隊などがこちらに加勢することになるのだからあちらよりこちらが有利になる。
「とはいえ混戦になった時のファンネルは厄介か」
ハマーンが削っているとはいえ、まだまだ量産型キュベレイは多く、そしてファンネルもまた多い。
MSを狙うのは当然だが、ハンマ・ハンマを無理して狙うよりもコントロールが甘いファンネルを落とした方が手早く、効果的か。
「――届く」
1機の量産型キュベレイが間合いを測り損ね、慌てて距離を取ろうとするが――逃さん。
『来るな』
アクティブカノンからのビームを躱し――
『来るな!』
腕に格納された状態から放たれるビーム・ガンを避け――
『来るな?!』
ファンネルで全方位から攻撃されるが問題なく進む――
『来るなあぁ!!』
ビームサーベルが振るわれるが逆にビームサーベルを持つ手を切断し、返しで――
『イヤアァァ!!』
胴体を切り裂き、量産型キュベレイは真っ二つに分かれ、一拍置いて爆発する。
「ちっ……気分が悪いな」
人など数え切れないほど殺してきた。
殺して何も思わないほど堕ちてはいないが、一般人ほど思い悩むことがないのも事実だ。
しかし、この敵はきつい。
やはり、相手が子供だからだろうか、思いが純粋過ぎて心に来るものがある。
それに加えて――
『よくもプル9を!!』
向けられる幼い肉親を殺された憎悪というのは経験がない。
「嫌なものだな。しかし、だからといって見逃すつもりはない」