第五百四十九話
「ハマーン閣下が危機に瀕すればあるいは――とは思ったが、期待に応えてくれてありがたいな。マシュマー・セロ」
マシュマーからもハマーンと同様の光が放たれ、搭乗機であるザクIII改はクィン・マンサと並ぶ大きさに視え、アレンはまた新たな現象に喜んでいた。
「ニュータイプとはよく言ったものだな」
ジオン・ズム・ダイクンはこんなわかりやすい形の新人類ではなく、精神的進化を指しているのをわかった上でつぶやく。
「それにしてもマシュマー・セロ程度の素質でこの規模とは思わなかった。私のサイコミュもサイコフレームも搭載していないのに……前の世界とはそれほど差は感じないが、やはり環境が育てる何かがあるのだろうか」
前の世界ではアクシズ、ネオ・ジオンは有利に戦い続け、勝利を収めた。この世界もこんな内輪もめができるほど有利に進めているが――
「ハマーンの救助にマシュマー・セロが間に合った。これで――うん、ネオ・ジオンの敗北はなくなったか」
実は未来予測システムには先程までネオ・ジオンの敗北……具体的にはハマーン戦死の未来が確定していた。
ハマーンにとっては突然のスラスターの爆発だったがアレンや未来予測担当のプルシリーズからミソロギア内に共有されており、それが起因でプルツーに敗北して戦死するという未来も共有済みである。
しかし、マシュマーの覚醒によってその未来が覆された。
「これでフル・フロンタルが下手を打たなければこれ以上私達が手を課す必要はないな」
決定的な一撃は防ぐつもりではいたが必要がなくなって嬉しい。
「それにしてもマシュマー・セロ……ビームを弾いているな。ミノフスキー粒子を操るほどのサイコミュは乗っていないはずだが……あ、お前もあまり戦えないみたいだな。ザクIII改はマシュマー・セロに合わせてチューンしているだけでニュータイプ専用としては最小限だから仕方ないか」
想定と違う運用は寿命を縮める。それはどんなものであれ同じである。
「その代償にあの無双と考えれば安いか」
躱しもせずただただ全てを受け止めながらクィン・マンサや量産型キュベレイ、ハンマ・ハンマ、ドーベン・ウルフと戦い続けるマシュマーの姿を見て、アレンは納得する。
そしてマシュマーに気を取られている敵を着々と落としていくフル・フロンタル。
「イリア・パゾムがハマーンを回収して帰還中――しかし、キュベレイがあの様子ではこの戦いにはもう復帰できないか」