第五百五十話
「くそっ!ハマーンを逃がすな!やつは今満足に動くことができない!なんとしても落とせ!!」
グレミーはヒステリックな叫びで指示を出すとオペレータがそれに応えるように動き出す。
(やはりハマーンを相手にするにはまだ成熟が足りなかったか。あれだけの数で包囲した上にクィン・マンサまで出しておいて仕留めるどころか満足にダメージを与えられないなどと……)
結局致命傷となったのは機体の限界を迎え、自爆したに過ぎない。
期待していた戦力の戦果がその程度であるというのは如何ともしがたいものだった。
(いや、ハマーンが化け物過ぎたというべきか……しかし、あのクィン・マンサの姿を見ては――)
モニターに映る装甲がドロドロに溶かされているクィン・マンサの姿は出撃前にあった威風堂々としたものではなく、間違いなく敗者のそれである。
(ここで逃げられると面倒だ。フラグシップ機であるクィン・マンサがあの様相では味方の士気にも影響が出ているだろう。コロニーを囮にするか)
「コロニーの加速を念頭に軌道の再計算をしておけ」
「かしこまりました」
これだけでは対策とならないことは自覚しているグレミーだが元々反乱する側であるし、事前にある程度察知されていたこともあって根回しも十全に行えたわけではないため切れる手札は少ない。
(あのリゲルグ……イリア・パゾムか。厄介だな。足手まといとなったハマーンを連れてよくやる。忌々しい。クローン達はフル・フロンタルと……ビームを弾く意味がわからんマシュマーに足止めされている。スペース・ウルフ隊はキャラのゲーマルクと、か)
焦っているが戦況的にはグレミーの方が優勢である。
ハマーンが後退したことでネオ・ジオン軍の士気は下がり、勢いは見るからに落ちているし、その後退するきっかけとなった部隊……特にクィン・マンサの存在は傷だらけとはいえ、やはり威圧感があった。
ならなぜこれほど焦っているのかというと、もしこのままハマーンと取り逃がしたりした場合、始まるのは消耗戦だからだ。
コロニー落としを完遂せねば反乱の初動から躓くことになり、寄せ集めでしかない軍はそれだけで瓦解しかねないのでなんとしても一定の成果をあげなければならない。
ネオ・ジオン軍もコロニー落としなどという行為を自分達の意志で行うならともかく、離反だけでも万死に値するのに、ジオン系の名を掲げて行われるなど許せるものではない上に、今撤退しては反乱軍に敗北したことになり、威信が保てなくなる。
つまり、互いに引くに引けない理由が存在し、被害が許容できなくなるまで戦い続けることになってしまう。
それでも引かせる事柄として真っ先に上がり、唯一と言っても過言ではないのが指導者の死なのだが――それを目前にして逃がすというのは理想的な勝利を逃すことと同義である。
「……全艦に伝えろ。主砲をハマーンに集中させろ。奴さえ倒せば我々の勝ちだ」