第五百五十七話
「クッ!卑怯な!!それが組織の長がやることか?!」
「守り通せなかった負け犬が何を言っても通じんな」
追いついたプルツーだったが、動くことができないでいた。その理由は簡単、ハマーンがグレミーを盾にしているからだ。
別にそんなことをせずとも負けることはないと自負しているが、互いにIフィールドを纏っている以上は決着までに時間が掛かり、損害が増え続ける。
故にこのような手段まで使う。
「さて、貴様の飼い主を殺されたくなければ大人しく降るがいい」
「私が降参してもグレミー様の扱いは変わんないだろ!」
「それはそうだな。しかし、貴様が飼い主を殺す引き金を引くかどうかという違いはあるぞ?」
しかし、刻一刻と戦局は変化していた。
スペースウルフ隊とクローン部隊はフル・フロンタル達(マシュマーを含む)と戦い続けているが、問題は他の部隊だ。
ハマーンの復帰と快進撃でネオ・ジオンの士気が上がり、逆にもう少しで討ち取れるというところから逆転劇。
しかも、その勢い止まらず艦隊まで到達し、MSで出撃したことで指揮の委譲こそしているので指揮系統の混乱こそないが大将が生け捕りにされ、最終兵器とも言えるクィン・マンサは相対して膠着状態となれば士気も下がるというもの。むしろ戦線が崩壊していない、敵前逃亡を図るものが出ていないことを褒めるレベルだ。もっとも実情は同胞を裏切ったことで後がない、逃げようにも背を見せれば敵からも味方からも撃たれるというだけの話だが。
「それでどうする。このまま戦うというなら遠慮するつもりはないが」
「うわああぁあ!?_」
とっとと返答しろとガンダムmk-Vのコクピットを殴りつけて降伏を促す。
(この機体だからできるが、キュベレイでこれをやると力加減に失敗して殺してしまうか、それともキュベレイの手が壊れるがのどちらかだろうな)
とこの機体を手にして慢心とも余裕とも言えるどうでもいいようなことをに思考を割くハマーンだが、事実として慢心も余裕があった。
この機体さえあればもう2機ぐらいクィン・マンサが来たとしても勝つ自信があるほどに。
「さあ、どうする」
「――ッ!!」
ここでグレミーは、指揮官として、プルツーに戦えと命ずるべきだと理性が言っている。ハマーン本人が言っている通り今か後かの違いなだけで、今ならプルツーに命ずれば自身を救い出す可能性がある。しかし、それを声にすることができなかった。
なぜならハマーンの思いがサイコ・フレームを通して伝わっているからだ。
降伏してくれた方が手間がない、グレミーの身柄自体はどうでもいい、戦うならとっとと戦いたい、機体を動かしたい、もう潰してしまうか、この後の連邦との交渉は……このグレミーの機体も使えるか?
など、自身の扱いよりも、戦いの行方よりも後のことを既に考え始めていることで本当に自分の生死に欠片も興味がないのだとダイレクトに伝わってきたのだ。
つまり、プルツーに戦えと命ずれば……いや、声を発した段階で殺される未来がニュータイプではないグレミーにも視えた。
「ギリ――」
プルツーの苦悩の声として歯ぎしりの音が響く。
強化人間は基本的に操られる側である。そしてプルツーは更にクローンで、その色は濃い。個人の責任や見知らぬ人間の命などなら無視して動ける。しかし、自身の生命よりも優先すべき相手の生命を盾にされては操られる側の人間では思考停止してしまうのも仕方ない。
それでも結論を出さなくてはならないというのはプルツーにも理解していた。
そして導き出された答えは――
「――降る――」
操り人形は所詮操り人形でしかなかった。
これが原作のようにジュドーやプルと出会い、精神的に成長していたなら変わらず洗脳を施されたとしても違った結果が出たかもしれないが、たらればの話である。