第五百五十九話
戦後処理というのは戦争の本番とも言える。
しかも今回は内乱だ。配れるパイが上位の人間には要職という離脱した者達の後釜に座らせば文句は少ないが、現場レベルとなると難しくなる。
金、名誉、物品、それらを与えたところで一時しのぎにしかならず、旧友との殺し合いで士気はガタ落ちだ。
そして、ネオ・ジオンにはコロニー落としを行おうとした組織というレッテルが貼られることになった。
ジオンの負の遺産、コロニー落とし。それを再び起こそうとしたというのは新しい組織として活動をしているネオ・ジオンにとって重くのしかかる。
「不幸中の幸いはガンダムタイプを手に入れることができたことか」
あれは間違いなく連邦製MS。しかもなぜか首魁であるグレミー・トトが乗っていたことでMSの横流しというありきたりのものからこの反乱は連邦によるものであるというストーリーを作り出すこともできる。少なくともネオ・ジオン上層部はそういう流れにすることで責任の一部を連邦に押し付ける予定のようだ。まぁどう言おうが組織が割れたのはその組織の責任なのだが。
「しかし、ラカン・ダカランはなかなか見事な戦いだった」
ニュータイプどころか強化人間ですらないラカン・ダカランは戦い続け、ハマーン閣下の親衛隊を半壊させ、キャラ・スーンの乗るゲーマルクも中破させ、フル・フロンタルとは生き残っていたスペースウルフ隊4機と連携して互角に戦った。
フル・フロンタルのMSが私が整えたものでなければ不思議ではないが、あいにく奴の機体は私が専用に整えたもの、それとたかがオールドタイプ5機で互角に戦えたのは素晴らしい。
「オールドタイプも捨てたものではないな」
最後はハマーン閣下が駆けつけ、問答無用で全員にメガ粒子を叩きつけてプラズマと化したがな。
さすがに試作機とはいえ、私が作ったものでは相手にもならない。鎧袖一触とはこのことだ。
ラカン・ダカラン達が戦死したことで武断派は降伏、内乱はこうして終了した。
「ハァ、気楽そうで羨ましい限りだ」
手元の報告書を見ながら零していた独り言に反応するものがいた。
ハマーン閣下である。
「こうして事務処理を手伝っている私に随分な言い草だな」
「……すまない。助かっている」
「わかればいい。苛立ちもわかるからな」
今、私(人形)はハマーン閣下の私室で、言った通り事務処理を行っている。そしてそのほとんどが今回の内乱の損失が具体的に数字として報告されている。
その数字が素晴らしいものになっている上に多くの親衛隊を失ったことで身の回りが不自由になり知らず知らずストレスを溜めているのだから多少の八つ当たりも許容しようではないか。
なにせ今回の内乱で失った戦力はネオ・ジオンの30%に近いものだ。
促成栽培で早期回復がある程度可能な私達ですら痛いと思える数字であるのに常識的な組織であるネオ・ジオンでは重傷と言えるだろう。
「仕方ないこととはいえ、反逆者を再び使わねばならないとは」
これも苛立たせる要因の1つだ。
反逆者など全て断罪してしまいたい、それがハマーン閣下の本音だが、それができるほどネオ・ジオンの基盤は強くなく、地球連邦は弱くない。
「だからこそ安心して使えるように私に仕分けさせたんだろう?」
以前私が親衛隊の裏切り者を判別したことを依頼された。快く受けた……もちろん相応の対価を支払ってもらったがな。
「予算を再計算しなくてはならなくなったがな」
ちなみに他の貸しは精算されたが試作機の貸与分だけは未払いだ。
あれはミソロギアでも機密レベルが高いので対価も相応に設定してあるので交渉中である。