第五十六話
ニュータイプの予感というのは未来予知とも言える。
それがなぜなのかは解明できていない……まぁ解明できていたら全知全能的なことができるだろうが……それはともかく、その予感はニュータイプ能力が優れていれば優れているほど精度が高くなる。
すなわち私の予感は未来予知のそれと合致する。
「そんな大層なものではないだろう。ただ単にアレンがミスった、それだけだ」
そう切って捨てたのは兵器開発部が完成させたというアクシズで再現、改良を施したリニアシートと全天周囲モニターの資料を持ってきたハマーンであった。
ついでにいうと約束通りショートケーキを献上したのが功を奏したのかドSモードが復活している。
……ちなみにイリアやプル達にも強請られたので比較的材料が揃いやすいチーズケーキを振る舞った。
そしてその資料を目に通してみたがアクシズで量産ができる範囲内では最高の品質と言っていいものだった。
おかげで私達が手を加える必要はないが、代わりに私達が現在開発しているMSを全て再設計し直さなければならなくなった。
それに脱出装置としての機能を持たせる案も盛り込ませないといけない。
「また忙しくなるな」
「その前にトゥッシェ・シュヴァルツを完成させる方が先だ。でないといつまで経っても訓練ができん」
ショートケーキでストレス解消が成功したので有耶無耶にしようかと思ったが、私の思惑はショートケーキより甘かったらしい。
ということで再設計より先にトゥッシェ・シュヴァルツの完成させた……もっとも全天周囲モニターとリニアシートは施されていないが。
これでハマーンの鬱憤も多少はマシになるだろうと早速ガトー中佐……は忙しそうだったので千の刃ことバグキャラ筋肉……ではなく、オールドタイプな筋肉黒人ラカンとカリウスを用意した。
2人にはそのまま戦ってもらっても一方的な戦いになり、データ収集に支障が出るので前もってビットのデータが入ったシミュレータで慣れてもらった。
もっとも慣れただけでビットの対処がそう簡単にオールドタイプにできるわけもなく、未だに撃墜判定を逃れたことはないが、確実に生存時間が伸びているので効果はあった。
それにしても、ついこの前まで前線で活躍していたカリウス・オットーはともかく、ラカンはなかなか優秀だ。
一年戦争当時にソロモンで生き残り、こちらでシャアが目を掛けただけのことはあるな。
ぜひ私特製のプロテインを飲んでみないかと勧めているのだが断られ続けている……なぜだ?
それはともかく、カリウス・オットーはザクIIN型、ラカンは外宇宙用に改造されている専用のリックドム……ラカンにも何か機体を用意してやるか、そのうち。
『ゆけ、ファンネル!』
ハマーンが今、新型ビット『ファンネル』を飛ばす。数は10機。
この10機を同時に飛ばす段階で既にビットとしては革新的と言える。
旧式のビットであれば10機もの数を同時に操ろうと思えばパイロットにそれ相応の負担を強いる。どれぐらいの負担かというとインフルエンザ発病中に鍛冶をするぐらいにキツイ……らしい。
これはデータ上のことであり、私はそのような経験をしたことがない。
私の場合、20機を操ったところで反動が全く無いのだが……今のところ30機までは操ってみたが多少疲れたがそれだけだった。
その結果にハマーンもイリアもスミレも呆れ顔だったな。プル達は褒めてくれた……よし、夕食はプル達の好物ばかりにするか。
「ファンネル……調子良さそうですね。ハマーン様の脳波、バイタル、両方安定してますし」
「そうだな」
トゥッシェ・シュヴァルツの元々の武装であるSビットの段階でも小型化に成功していたが、私が開発したガンダリウムδにより更に軽量化したことでファンネルの機動力、加速性は格段に向上した。
そしてその上、唯一ファンネルが撃墜される要素であろうビーム兵器に対しての対策として耐ビームコーティングも施したので『従来の』ビームライフルなら1発程度なら耐えることができるだろう。
もっとも連邦が……噂に聞くティターンズがそれほど甘い組織ではないだろうがな。
未だに地球圏で戦い続けているジオン残党達の情報ではティターンズが新型のMSを開発しているというものまであるらしい。
あくまで憶測に過ぎないらしいがガンダム開発計画が頓挫したことによって代わりとなるガンダムの開発なのではないかと疑っているとのこと……本当のところはどうなのかはわからないようだ。
「このままでも勝てないことはないだろうが面白くないな。ハマーンに自身が許容できる範囲までファンネルを出せと指示を出せ」
「それは危険では……」
「違うな。危険だからこそ今やっておくのだ。ハマーンが自身の限界を知る必要もあるし、我々の研究の糧ともなる」
「……わかりました」
スミレはレベッカ某の件で検体に過保護になりすぎている。簡単に言うとトラウマとなっているようだ。
これが半強化人間と化しているイリアやプル達ならわかるが、ハマーンはナチュラルニュータイプなのだから気にしなくても問題ない。
これが実戦ならば死者の念、生への執念などの思念波をサイコミュが受信することによって逆流現象が起こって支障を来すことがあるかもしれないが、これは模擬戦なのだからやれることはやっておくべきだ。
ハマーンは指示通りにファンネルの数を増やしていき、数は20機を超えた……そこで脳波の乱れが生じ、少し遅れてバイタルも若干の乱れが出る。
「ここまでか、数を17機まで減らすように指示しろ」
これがハマーンでなかったなら続行してどの程度の限界なのか計るところだが、ハマーンはこの後も仕事があるので本当の無理はさせられない。
検体であった頃だったなら容赦なく続行だっただろう。
17機に減らすと脳波もバイタルも安定し、ファンネルの運用も元に戻る。
「ふむ……このままだと実戦で使えるのはこのぐらいか?」