第五十七話
ハマーンの模擬戦の成果は上々、ファンネルはほぼ仕上がったと言えるだろう。もちろん新技術を実戦投入するための最低ラインではあるが。
あれからハマーンは17機のファンネルを1時間、実戦レベルの機動で操りきった。ただし、1時間を過ぎるとMSの操縦に粗が目立ち始めたのでこれぐらいが限度だろう。
もっとも実戦であったなら生死を賭けた戦いであるため、疲労の蓄積はもっと早いだろうことを考えれば改善の余地はまだまだある。
ああ、ちなみにカリウスとラカンは散々遊ばれた挙句、最後に本気になったハマーンに瞬く間に撃墜判定を頂いた。
2人はオールレンジで遊ばれ続けたせいでコクピットから出てきた時の顔色はほぼ死人だった。
この様子からだとガトー中佐にも負けはしないだろう。
後はプル達で入念に運用データを集めればキュベレイまで後一歩だ。
「というわけでプル7から10をロールアウトだ」
「労働力補充のためにプルシリーズを覚醒させるのはどうなんですか、以前量産品にするつもりはないと言っていたのに」
「何を言う、タイミングがちょうどよかっただけで今回のプルシリーズは今までのものとは一味違うぞ」
「そうなんですか」
「そう、目の色が違うのだ」
「……それだけですか?」
「これでスミレもプルシリーズの見分けがつくだろう」
ちなみに私は見分けがつく……というか思念はそれぞれ違うからそのようなものは必要ない。
「本当はもっとわかりやすく髪の色を変化させたかったのだが、そこまですると遺伝子が変異し過ぎてニュータイプとしての素質に変化が生じる可能性が高いので妥協して——」
「あのー……普通にカラーコンタクトじゃダメだったんですか?」
「…………………」
「それに髪型を変えるだけで良かったのでは?」
「…………………さて、プル7〜10の教育状態はどうだろうか、今回はMSの操縦を重視してみたが……」
「あ、誤魔化した」
さて、時間が経つのも早いもので0084年9月になった。
本来ならそろそろキュベレイができていても不思議ではないが、実は苦戦している。
いざ、作らん!としたところでハマーンから待ったが掛かった。
何かと問えば、ハマーンの口から出たのは整備性、維持費の話だった。
私の設計ではコストパフォーマンス度外視でハイエンド機を予定していたのだが、ハマーン曰く、そんなもの作ってもアクシズの財政状況では満足な整備ができず、維持ができないという世知辛い話だ。
しかし、私の検体のついでにアクシズのトップをしているハマーンが乗るのはハイエンド機以外ありえない。
それでもハマーンが譲らない。名前は譲ではないのに譲らない。
だからと言ってさすがにフラグシップモデル機の性能を下げるというのは、効率重視である私ですら選択にない。
あーでもない、こーでもないと話し合った結果……別に戦争が近いわけではないので、とりあえず整備性がよく、維持費も控えめなものを開発しようということになった。
「それって既に量産機なのでは……」
というスミレのツッコミは聞かなかったことにする。ハマーンもスルー……いや、何も聞こえていなかったようだから私の空耳だったのだろう。
ただ、当面の間は有事の際はトゥッシェ・シュヴァルツを貸し出すことになった。更にデザインが気に入らないというハマーンのいうクレームに応えてデザインとそれに合わせた機能に変更したのだが……トゥッシェ・シュヴァルツのムダにある装甲をガンダリウムα、β、γ、δの複合装甲にしてサイコミュも試験型ではなく、少し旧式ではあるが安定して起動するものにし、更にビットコンテナ……ファンネルコンテナも小型化し、せっかくなのでキュベレイのデザインにした。
この機体をたまたま見た兵器開発部の人間が——
「これが鉄屑——アレン博士の開発したハマーン様専用機か?!」
と驚いていたが……ん?たしかにこの機体は現行のMSなどより高性能ではあるし、最大の要点であったサイコミュもファンネルも搭載しているな……いや、こんなMSが専用機な訳がない。
あの兵器開発部の人間に見る目がなかっただけなのだ。
……と、そんなことがあったりしたが基本は採掘と研究、開発の日々という幸せな時間を過ごしていた。
「アレン、シャアから連絡が来たぞ」
また面倒なことになりそうな気がする。
「アナハイムとの取引は無事終えたようだ。成果も上々、何よりアレンがくれたMSの設計図を甚く気に入ったようで随分といい条件で買い取ってもらえたようだ」
「ふん、商人というのは相手がいい取引をしたと思わせておいて実は自分の方がいい物を手にすることが基本だ。そのような幻想ぶち壊してしまえ」
「……そうだな。少し浮かれていたようだ」
とはいえ、ハマーンがこれほど喜ぶのはシャアから連絡があったことも多少はあるだろうが、満足がいく取引ができたのは間違いないだろう。
アクシズは辺境であり、物資の多くをアナハイムに頼っているという弱い立場である中で十分な取引ができたことは摂政としての初めての外交としては上々の功績だろう。
「それでアナハイムからアレンに兵器の設計を頼みたいそうだ」
……予感は的中、確実に面倒事だ。
しかし、MSではなく兵器とな?
「……一応聞くが、コンセプトは?」
「ドダイの高性能機だそうだ。大気圏突入、大気圏内での飛行、MSの運搬が主な用途らしい」