第五百六十二話
「これは奴らに一杯食わされたのではありませんか?こんなMS、ありえないでしょう」
連邦軍将官の1人が馬鹿にするように声を上げる。
ここは地球連邦軍高官による秘密会議が開かれていた。
主な議題はネオ・ジオンの戦力分析であり――ハマーンが乗る名もなき試作MSに話が集中した。
連邦軍にもっとも多く情報をもたらしたのは敗退してまた潜伏するための物資を欲した反乱軍残党からなので正確性と鮮度は高かった。
「確かに……5年先の技術でもこれほどの機体はないはずだ」
「あのクィン・マンサとかいう機体も規格外だが、この機体は次元が違う。やはり偽情報か?」
続く声も疑いのものが多数上がる。
情報が正確であっても、その内容に現実味がなく、相手が残党というテロリストであることから信用性が低かった。
しかし、そのような意見だけでもない。
「しかし諜報部からも同様の報告が入っている」
「私のところも同じだ。……揃って取り込まれた、掴まされた、などということはありえんだろうな」
「まずありえんだろう。上の方はともかく、現場レベルとなると防諜はザルだ」
事実、ネオ・ジオンの反乱は連邦軍の諜報員による扇動が主原因なのだから間違いなく情報戦では連邦軍に分がある。
「だが、事実だったとしてこの意味不明な機体は計画の妨げになるぞ」
「新型のガンダムでも厳しいか」
「あれは扱えるパイロットが少ない。さすが白い悪魔用に開発しただけのことはある」
「少なくともいないわけではあるまい?このMS相手では数よりも質が重要だ。そして単体の質で優れぬなら匹敵する質の数を増やすしかない」
「いやいや、ビーム兵器が通用せんなら躱しきれんほどのミサイルをお見舞いしてやればよかろう」
「戦場出たことがない者が軽口を叩くな。そんな単純なことでいいなら最初からやっている」
「そもビームを躱しているような奴らにミサイルが当たると思っておるのか。重力という枷がある地上ならまだしも宇宙では当てられんよ」
「あの曲がるビームも厄介だ。あれほど曲げられてはいつ誰に攻撃してくるかわからん。被害の拡大は免れん」
「あれはこちらで模倣できないのか」
「理論的には部分的には可能です。しかし搭載するとなるとMRX-009(サイコガンダム)よりも大きくなるでしょう」
「MRX-009というと……40m?!しかもそれを超えるだと?!あんなデカブツでは相手にならんだろう!」
「現実的ではありませんな。それなら艦艇に載せた方がまだマシでしょう」
「戦艦の主砲クラスを曲げることを想定するなら更に大型化します」
「ハァ……そのようなものをどうやってこの短期間に仕上げてきたんだ。あのクィン・マンサというのが最新鋭機だという話だったはずだが」
「ネオ・ジオンの組織規模から推察するにそれは間違いないでしょう。ですからあの機体は別系統のものではないかと分析しておりますが……それが何処かは調査中です」
「しかし戦場の真っ只中でMSを乗り換えるなどという無謀を行う理由が気になるな」
「調整が間に合わなかった、というならあの程度の時間なのだから開戦を遅らせる程度でどうとでもなったであろう」
「おっしゃるとおり切るつもりがなかった手札というには随分と毛色が違いすぎますな」
「となると例の組織か」
「我々の地球を好き勝手掘り返している奴らか」
「……今一度奴らに部隊を出してみてはいかがでしょうか」
「捕虜の件がある。軍を動かすわけにはいかんだろう」
「その件はネオ・ジオンと交渉を行っています。つまり――」
「ミソロギアを如何にしようと捕虜の件は問題にならない、と」
「少なくとも地球にいる者達が消える程度なら問題ないかと」