第五百六十八話
『要求はそう難しいものではない。捕虜1人につきアッシマー1機と交換しよう』
「捕虜とMSを交換だと?!フザけたことを言いおって!」
「しかしアッシマーという点が引っかかりますな。奴らの機体は飛行できるので同様に飛行できる点はわかりますが対価というならΖを求めそうなものだが」
「アッシマーは維持コストが安いからではないか。Ζは初期モデルよりもマシになったとはいえ、まだまだコストは高いままじゃからな」
『こちらの調査で連邦軍が呑めそうな条件を選定したものだ。これ以上の譲渡はしない。もし受け入れられない時は――これから表示する情報を世界に流す。ただし、そちらも他者に知られたくはないだろうから今から名前を呼んだ者順に個別で見るように』
そして次々と名が呼ばれていく。その声に不穏なものを感じ取り会議室は一気にざわつき始める。
その中で1人の男の声があることに気づいて声を上げる。
「――ちょっと待て、なんでここにいるメンバーの名を知っているのだ?!招集したのはこのビデオレターが届いてからだったのではないのか!!」
「そ、そういえば?!」
「誰かが情報を漏らした者がいるのか?!」
「いや、今日来る予定だったが来れていない者達の名がない」
「では奴らが内通者か?!」
「いないわけではないだろうがあまりに露骨すぎやせんか。疑われようがこの場に参加して弁明する方がまだ賢いわ」
「そうだな。それにこれはこちらの内部分裂を狙う謀りの可能性も――」
『なお今上げた者以外の派閥の者にも同じようなものを送るのでいらない勘ぐりはしないように』
(……なんだか我らの疑問に答えるように感じるのだが気にし過ぎか?)
そして得体のしれないものの指示に従うのは業腹ながらニュータイプでもないのに嫌な予感が過り、指示を無視して揃って見る、という選択肢は取らず、言われた通り順番に個別で見ることとしたが――見た後の彼らの顔色は死にかけの病人に匹敵するほどの顔色であった。
「……」
「……」
一頻り絶望した彼らだが――
((ああ、皆同じか))
周りを見て自分と変わらない顔色に今まで以上に仲間意識が芽生えた。もっとも自分達は脱税しておいて国民にはちゃんと確定申告しろよという無神経などこぞの総理と同程度には腐っているのでそう経たないうちに忘れることだろう。
しかし、少なくとも今現在は――
「捕虜の数は52人でしたな」
「52機のアッシマーをよこせとはなかなか剛毅なものだ。はっはっは」
「いやいや、貴重な兵士達を52機のMSで助かるなら安いものです」
「うむ、至急手配するとしよう」
((どうせ税金だし))
やはりどこまでいっても腐った者は腐っているのだった。