第五十八話
ドダイ……ドダイか、一年戦争当時のデータによると、爆撃機を兼ねたMSの輸送機であるが対空の武装が乏しく、連邦の航空部隊に落とされることが度々あったらしい。
戦場の主体がMSとなった以上、輸送手段が必要なのはわかるが簡易輸送機に人員を割くというのは馬鹿らしい、いらぬ人材の喪失を生むだけだ。
サイコミュを載せれば操縦なんて簡単なんだが、撃墜される可能性を考えるとコスパが悪いな。
操作性は良さそうなんだが。
「アレン、自分が自由に使えるから忘れてるかもしれんがサイコミュはニュータイプじゃないと使えないからな?」
「……もちろんわかっている」
そんなことは当然わかっている。忘れていたわけではない。
しかし、私達が運用するにはちょうどいいかもしれない……いや、ダメか。ドダイにサイコミュを搭載して操るとなるとビットやファンネルと同じように疲労してしまう。
長距離の移動用と割り切ればあるいは、というところか。
さて、本題に戻るとしてミノフスキー粒子のおかげで無線操作は不安定……となると有線か?……いや、戦場で有線なんて不確かなものだけでは信頼性がないな。
後、使えるのはレーザー?しかし、これも扱いが難しい。戦艦などのような出力があれば安定するだろうがMSにそのようなものを望むべくもない。
うーむ……そうだ、いっそ人間が操縦するようにMSにも操縦させてみるか……しかしそれでは操縦している時が無防備になる。ならドダイに耐ビームコーティングを施した装甲を……耐えるだけでは微妙だから武装も……ん?これは——
「どこからどう見てもGP03だな」
「……いったいどこで間違えた?」
「最初からではないか?」
まぁ最初は多少悩んだドダイの開発は結構早く終わった。
求められるであろうスペックはある程度想像がつくものだからこそ取れる選択肢は少ない。
「……改めて実感したがアレンは本当に天才、いや、鬼才なのだな」
「ふっ、ハマーン、そんなに褒めてもチョコレートケーキしか出てこないぞ」
「おお、褒めて見るものだな」
操縦方法もMSと接触することでデータ通信を行えるようにする比較的安価な接触通信装置(アレンの開発品の1つ)を取り付けることでドダイII(仮称)を操縦可能にした。
更に非接触時にはレーザー通信で簡易的な操作も可能……本当に簡易な操作しかできないがな。
そして高性能機を所望というからには要望通り大気圏突入、大気圏内飛行は当然として全気候適応と水中運用も可能とした。
水中運用に関してはドダイIIの前方に、耐ビームコーティングの流線型の盾を展開させることで抵抗力を弱め、水陸両用MSのズゴックと同等かそれ以上の機動力を得れるはずだ。
これの難点はMSの座高では盾にMSが隠れきれないため寝かせる必要がある点だろう。
MSを寝かせてしまうと緊急時に初動が遅れてしまう可能性が高い……が、そこはあくまで輸送手段ということで割り切る。
後、ドダイII自体の備え付け武装はないがマシンガンやバズーカなどを取り付け可能なアームが左右に1つずつ備え付けられていて、それに状況に応じた武装を持たせることが可能だ。
そしてドムとの部品互換80%でコストも安く、今の環境ですら通常のドダイより安く製造が可能だ。
更にジオン製のMSにはなぜか少ない盾までオプションとして使える。
まぁこの盾は少し大きくて使いづらいかもしれないが、それは現場の努力次第だ。
「正直、これをアナハイムにやるのは惜しい気もするがな」
「まぁ派生機を作ろうと思えばいくらでも作れるから問題ないだろう」
そもそも宇宙が主体のアクシズに全気候適応や水中運用は必要ない。
大気圏突入、飛行も地球に侵攻でもしなければ同じように必要ないはずだ。
「それとも地球に侵攻するという話でもあるのか」
「そんなもの四六時中している」
……マジで?
おっと、あまり私のキャラに合わない発言だったな。
「しかし……本気、なのか?」
確かに現在の政権の主流はタカ派となっているのはわかっているが、そこまで染まってしまっているのか?
いくら一年戦争、デラーズ紛争で国力が下がっているとはいえ、アクシズだけではどうにもないらないぞ。
「ああ、負けを認められないというのもあるのだろうが……やはりアクシズだけでは人が暮らすのは狭すぎるのだ」
狭い、か……物理的な空間的な意味ではもちろんだが視野的な意味でも狭くなっているな。
心理学的には人は閉鎖的な環境では視野が狭くなり、思考の停止に陥りやすく、付和雷同になりやすい。
群集心理というやつだな。
「今はガトー中佐が協力してくれているので以前よりはコントロールがしやすくなったから、何か切っ掛けがない限りは3、4年は保つだろう」
逆を言えば3、4年しか保たないってことか。
「……アクシズから逃げるか?」
「…………私を置いて逃げるのか」
「冗談だ。冗談だから落ち着け」
ハマーンは態度こそ変わらないが、瞳には明らかな動揺と思念波は乱れに乱れて意味がわからないほど乱れている。
「冗談か……冗談……本当に冗談か?」
「ああ、本当だ」
そもそもクローンの研究なんぞ他ではできないし、プル達を連れて行くには目立ち過ぎる。置いていくなんて論外だ。
「そうか……あまり質の悪い冗談は控えて欲しい」