第五十九話
「……アレン博士」
「なんだね」
「……最近ハマーン様がよく来ますね」
「ああ、そうだな」
前にも言ったが摂政になってからというもの、以前より来る頻度は下がっていた。
それがこの前のことがあってからは2日に1回は来るようになった。
忙しいというのに時間を何とか作って来る。あまり時間がない時は顔だけでも見せていく……これは情緒不安定の一種だろう。薬……は仕事の関係上よろしくないからサプリメントでも渡しておくか。
「ハマーン様……大丈夫なんでしょうか」
「確かに体調管理も仕事の内なのに無理なスケジュールを組んでいるようだな。ここに来てナタリー中佐の産休が影響しているのだろうか」
ハマーンのナタリー中尉への依存度はかなりのものだ。
姉妹のように過ごしてきたし、頼りにしていたシャアもいなくなったのでわからなくもないが、依存はほどほどにしておくべきだと思う。
(そういうことじゃないんですけどね……まぁアレン博士にこの手の話で期待するのは酷と言えるかもしれませんけど)
ん?思念波で呆れを感じたが……どうやら私の言っていることがズレていたようだ。
そうなるとスミレは一体何を言いたいのだろう。
「せめてプル達に嫌われているのはどうにかなりませんかねー。それだけでも疲労度が違うと思うんですけど」
「あれは私にもお手上げだ」
プル達というのは初期型(プル、プルツー、プル3)中期型(4〜6)後期型(7〜10)の全員を指す。
初期型はともかく、なぜ中期型から後期型までハマーンを邪険にするのか……まぁ本気ではないようなのだが事あるごとにバチバチと火花を散らしているところを見るとさすがの私でも疲れてくる。しかもプル達の人数が増えて圧力が増しているので余計に、だ。
「何度聞いても誤魔化される……というか本人達もその感情を持て余してるようだからなぁ」
これが子育ての難しさというやつなのだろうか?
私の専用機の話があった。
構想も出来上がっていたのだが資源が足らなかったため、先延ばしにしていたがやっと完成した。
と言ってもあまり目新しいものではない。
ただ、専用機と言いつつMSではないがな。
「それにしても……まさか採掘船を専用機にするとは……いや、それ以前になぜ1人で運転できるのだ」
そう、私の専用機とはなにを隠そう採掘船なのだ。ちなみに名前はまだない。
たまに一般人は勘違いしていることがあるが、輸送船や採掘船はMSなどより断然安い。
なぜかというと輸送船や採掘船などはMSほど精密機器は使用されていないし、限度はあるがMSのように容量に余裕がある(もちろん機能性を重視した場合は別だが)ため、小型化する必要性は運用次第ということになる。
そして私が目指したのは——
「どうだ。このファンネル空母は!」
「耐G対策を無駄に施した大型MSかと思っていたら、まさかの回避を捨てるとは……」
回避なんて私に向いていないことをするより長所を生かすべきだと思ったがゆえの選択だ。
採掘船はヨーツンヘイムと同型であるため優れたペイロードを有し、ジオン公国の正規輸送船であるパプア級を凌ぐ。
そんな採掘船に3台のサイコミュとファンネル200基、そして回避性能が皆無な採掘船を守るためにIフィールド……はコストの関係で見送り、その代わり、船体に耐ビームコーティングを施し、更に——
「この新たに開発したシールドビットがあれば簡単には撃墜されることはないだろう」
「名前からしてビットをシールドしたものか?」
その通り、ゲルググのシールドをビット化したものであり、攻撃機能はバズーカやミサイルなどの高威力の弾頭を迎撃用バルカン(弾はMMP-80マシンガンと互換)のみだ。
耐ビームコーティングが施されたシールドを本体としているため、ビームが主体となってきている現在ではかなりの防御性能を期待できる。
迎撃用バルカンは主に採掘船の致命傷を避けるために使われる予定だ。
余談だがシールド『ビット』の理由はファンネルは形がファンネルに似ているからその名前が付けられていることからシールドの形をしているシールドビットにファンネルは似つかわしくないということでビットとした。
「ところでファンネルが200基とは多過ぎではないか?そもそもアレンはいくつのファンネルを使うことができるのだ」
「残念ながらサイコミュが私の能力についてこれないらしく、本当の上限は不明だ。現状の上限はサイコミュ1台につき短時間運用で50基、長時間運用をする場合は40基というデータが出ている」
「……120基のファンネル……だと」