第五百八十二話
「……ふう」
ついため息が漏れてしまった。
やっと少し自由な時間を捻り出せるぐらいには政務が片付いたので気晴らしに新たな私のMSの試作機を試乗することとした。
キュベレイは改修して機動、運動性は例外を除いて最高クラスとなったのは間違いない。しかし、火力に関しては遺憾ではあるが時代遅れと言わざるを得ない。
だが、問題になるのは1から開発する予算と手間がないということだ。
グレミーの反乱とそれの鎮圧で失ったものは人、資源、予算、時間、名声、威信と多い。
その中で救いなのはクィン・マンサを外装はともかく、ほぼ無傷で回収することができたことだ。
プルツー専用機として調整されていたが、元々私の専用機として調整されていたものなのだから合わせるのは難しくない。
既に誰かが乗った専用機というところに思うところがないわけじゃないが……また1つため息が漏れる。
あのアレン代表から借り受けた名も無き試作機と比べると高級レストランとファストフード――は言い過ぎか、大衆食堂ぐらいの差がある。
「プルツーは強化されているはずなんだがな」
プルツーはニュータイプ的強化ではなく、身体を科学的に強化している。筋力や内臓、反射神経は通常の人間などよりも優れている。つまり、それに合わせられたクィン・マンサはとてもではないが通常の人間に十全に操ることはできない――はずだったのだが――
「物足りんな」
プルツーの修練不足か、私が人間の枠をはみ出したのか、それとも何か別の要因があるのか、フルチューンを施したクィン・マンサでも物足りなさを感じる。
「機体性能はもちろんだが……サイコミュが問題か」
技術者ではない私にははっきりわからないが、感覚で使う兵器だからこそわかる。機体性能をどれだけ向上させたところであの自身の身体を動かすが如く……いや、それ以上に動くあの感覚を得ることはできないとわかってしまう。決定的な差があるのはサイコミュなのだと。
そして問題なのは他の技術と違ってサイコミュは新しい技術であり、未知の技術でもあることだ。
進化した先が同じ、もしくは同レベル以上のサイコミュであるならいいが、プロセスが根本的に違う可能性がある。
下手をすれば1からではないにしても大部分を作り直すことになりかねない。
「……なんとか取引して手に入れたいが……アレン代表は甘いようで甘くない上に我々に余裕もない……それに連邦軍の動きも不穏と来ては……我慢するしかないか」
まさかクィン・マンサで満足できない時が来るとは思いもしなかったな。