第五百八十三話
「ほう、私のサイコミュを売って欲しい、と?」
「難しいことはわかっているがなんとかならないだろうか」
「無理だ」
「わかっていたが迷いなく即答だな」
そもそも前の世界のネオ・ジオンに対しても私のサイコミュを提供したことはない。
ハマーン専用機に提供していたサイコミュですらメンテナンスは私や派遣していたプルシリーズが行うことで機密を保持していた。
長い間属していた(外部協力者だった気もするが)組織にそうしていたのだから付き合いの浅い組織にそれよりも高待遇する理由がない。
せいぜいが同等程度だろうが――
「同じ対応をしてもいいが対価もそれ相応にいただくことになるし、何より間違いなくトラブルの種だぞ」
前の世界でも組織の指導者であるハマーンの専用機の整備を軍ではない者に一任していることで随分と揉めた。しかしあちらのネオ・ジオンはハマーンの下でだいたいまとまり、目障りな虫は私達が排除して居心地良くした上で揉めたのだからこの関係が浅いネオ・ジオンと起こるであろう揉め事はその比にならないだろう。数も質も。
ヘタをしなくても命のやり取りになる。
それ自体は私は経験と考えれば問題ないが――
「鬱陶しくとも今は貴重な戦力だろう?それにせっかく固めている地盤にわざわざ水を差す必要はない」
望んだものでもなければ代償も大きかったが、結果だけ見ればグレミー・トトや過激派をまとめて粛清することができたことで戦力確保の観点から降伏者を使っているが、奴らに次を起こす気力はない……というよりもそうなるように私が誘導したり選別したりしたのだから当然だ……つまり、ハマーン閣下の派閥にまとまったということで動きやすくなった。
まだ面倒な存在としてミネバ派があるにはあるが、グレミー・トトがザビ家の後継者を名乗って立ったことでそちらに合流した者達がいて動揺が広がっているのでしばらくは迂闊に動くことはないだろう。
そういえばDNA調査の結果グレミー・トトはギレン・ザビのクローンであることが確認されたようで大騒ぎになっていて、そのせいで処遇が未だに決まらない。
やはりダイクンとザビの血はジオン系組織において絶大な影響がある。
「ハァ……やはり無理か」
「そもそもそのクィン・マンサすら貸し出しているのをわかっているか?」
クィン・マンサは試作機のレンタル代として貰い受けたが、ハマーン閣下の専用機がないと何かと不便だろうと貸しているのだ。
これはハマーン閣下と私達だけしか知らない取引だがな。
「わかっている。しかし、あの乗り心地を知ると、ついな」
本音を言えばサイコミュF型は無理にしても2世代前のものなら出してもいいとは思っている。
そもそもこの世界の技術は目新しさが少ない。ならこちらから刺激を与えて先を促すことも吝かではないが、ネオ・ジオンで使われているサイコミュと私のサイコミュでは仕様が異なっている。もっと言えば前の世界のネオ・ジオンとも違うのだがな。
その違いを埋めるには相当先になるだろうから促しても刈り取るのにどれだけ掛かるか……その前に時渡りしている可能性が高い。
しかし――
「フゥ……」
別人である、とはわかっているがやはり『ハマーン・カーン』というのは厄介だな。もう10年以上の付き合いだからな。別人ではあっても同じ存在だからつい手助けしたくなる。