第五百八十七話
ジュドー・アーシタがビーチャ・オーレグを懐柔しているようだが、さて、どう転ぶかな。
私としてはどちらでもいい。
ビーチャ・オーレグとその他2名はジュドー・アーシタほどの才はない。しかし、実験体というのはいくらいてもいい。
しかし、ビーチャ・オーレグの気性を考えれば命の危機を軽視して安全よりも――
「やはりな」
MSを――百式やΖガンダムを強奪して売っぱらって逃げると言い出したな。
「所詮志低し者か」
奪って力として生き長らえるならばともかく、後先考えずに奪い、先を考えない愚かな人種だ。
連邦を敵に回して不良如きが生き残れると思っているのか、無謀は若さの特権ではあるが、その特権は上位者が認めてこその特権だということを理解していないのだろう。
「それに死など恐れていないなどと思っているようだが、そんな甘い相手ではないことぐらい想像できないのは若いからなのか愚かなのか」
元々その傾向が強かったようだが、殺し合いを経験してから生死観を悟った気になっているようだが、やはりMS越しの殺し合いでは実感が沸かないようだ。
結局ニュータイプの素質があろうと感じることはできてもそれから学ぶことができるかどうかは別だということだな。
もっとも感じることで学ぶことができるならニュータイプに人殺しなどできるわけがないのだが。
「それにしても連邦はいい仕事をしてくれる」
ビーチャ・オーレグ達に限らず、市民にたいしてニュータイプ狩りとも言える行動を連邦は行っているが……実のところ、これの仕掛け人は私である。
私達がニュータイプを大量に集めるには時間も人手も飼うための資材も必要な上に悪名が広がり、ネオ・ジオンとの関係悪化も懸念される。
では私達がやれないならばやれるところにやってもらうことにしたのだ。
まず地球で私がニュータイプを探し出し、その情報を色々な方面から連邦へとリークする。
そうするとサイコフレームという新しいおもちゃを試したい連邦は面白いぐらい食い付いてきた。
おかげで地球各地で未成年の拉致や人身売買が多発している。
一部マスコミが嗅ぎ回っているようだが、地球全土となれば調査範囲が広すぎるし、何より連邦が行っているのだからそう簡単に尻尾を掴めはしないし、掴めたとしても公表する前に消されることになるだろう。
「連邦のニュータイプ研究所の質の悪さはともかく、人員と資金には余裕があるようだからな」
思わぬ経緯で手に入ったサイコフレームという技術を使うためにはニュータイプが必要と研究所に今までの何倍もの予算がつけられ、ニュータイプの数が確保できたことで更に予算が追加された。
これで質の悪さを金と数で補うことができるだろう。……さすがに1000人もいれば大丈夫な、はずだ。今回の基準は扱いやすい人格と能力にしている。質の悪い研究者ばかりだからサービスだ。
「サイコミュの技術が根本的に異なり、随分と非効率な代物ではあるが行き着く先が少々気になる」
効率が悪いとはいえ、技術は技術。その先には違った何かが生まれるかもしれない。もっともハズレの可能性が高い以上は私は直接手を出す気は起きない。だからこそそれほど手間を掛けずにリスク少なく発展を促せるならば積極的に行うべきだろう。
しかし、これだけモルモットを用意したというのに連邦はビーチャ・オーレグ達まで狙うとは、なかなか強欲だ。
「まぁエゥーゴの艦だから引き抜いておきたいというのだろうが」
既に壊滅したも同然のエゥーゴではあるが、まだカラバという反地球連邦組織が存在する以上は穏便に弱体化させたいのだろう。
「しかし、さすがにネオ・ジオン側が不利すぎるか」
大したレベルのニュータイプではないにしても1000ものニュータイプがパイロットとなり、部隊が編成されれば苦戦は必至だろう。
「その時は責任を持って数を減らすとするか」