第五百八十八話
結局ジュドー・アーシタ、そしてリィナ・アーシタ、エル・ビアンノが加わえてビーチャ・オーレグを説得を試みたが……結局は保護の依頼は来なかった。
結局実験体になることを良しとせず――まぁ常識的には普通のことだ――ギリギリまでアーガマに滞在して逃げる準備を水面下で行うことにしたようだ。
愚かな選択としか言いようがないが、故人の遺志を尊重しよう……おっとまだ死んではいなかったか、個人の意志だったな。それに死ぬこともしばらくはできないだろう。
「しかし、助けに行くと言い出すと思っていたが……いいのか。死ぬかもしれないぞ」
「良いわけないだろ!でも、俺達が行ったところ何ができるってんだ!連邦なんて戦って勝てる相手じゃねぇだろ!」
逆説的にエゥーゴに所属していたことからネオ・ジオンは戦って勝てる相手だと思っているらしい……確かにネオ・ジオンは倒せる敵か。ハマーン閣下とミネバ・ラオ・ザビさえ始末すれば瓦解する程度の組織だ。
地球連邦は高官を全て吹き飛ばしても新しいモグラが次々現れる。残念ながら昔のように地球連邦そのものを解体して複数の国家に分断するのはできなくはない。しかし相当な手間が掛かる。
エゥーゴとティターンズが存在した頃ならうまく煽ればできたかもしれないが、今となっては軍がほぼ1枚岩となったことで結果的には地盤が固まった。
もっとも政府は気付いていないようだが、軍が1枚岩になって政府が腐敗するとクーデターのフラグが立つ。
地球連邦規模の軍事政権など前代未聞だが……前代未聞だからこそ見てみたい。
過去の軍事政権と同じく愚行を行い破綻するのか、それとも案外文民統制よりもマシな政を行うのか……まぁ九分九厘前者だとは思っているが、上手く転がって新しい形の秩序を作り出してくれないだろうか。
本格的にやるのは面倒だが、種ぐらい巻いてみるか。
「それで?なぜ私にその話をした。ビーチャ・オーレグを説得できず、私への対価も用意できない。助けに行くこともできないとなればもう見捨てるしか選択はないと思うが……まさか私に無償で助けろとでもいうのか」
実験以外では会うことなどないというのにこのタイミングで会いに来たということはそういうことだ。本人は無自覚ではあるようだが、本人すら気づかないことに気づくことができるのがニュータイプだ。
「そんなことは……思ってないなんて言えない、よなぁ」
きっかけがあれば気づくのは普通だが、素直にそれを認められるのは長所だな。
通常であれば意地を張る者が多いのだから。
「助けに行きたいというならアーガマと合流するぐらいならしてもいいが」
「――対価は」
「安直に喜ばなくなったのは成長と言えるな。対価は……エルピー・プルの身柄だな」
「――ッ!人を物みたいに――っていうのは今更だがよッ」
「掴みかかってこなかったか、私の予想より成長しているようで何よりだ」
こちらのエルピー・プルはジュドー・アーシタ達と同じ待遇で、ミソロギア内での扱いはゲスト扱いだ。
そのゲストから正式にミソロギアの一員(実験体)とする、それが対価だということだ。
「私は嘘をつかない。それを前提に話を聞くがいい。エルピー・プルの扱いは私のプルシリーズと同等とする」
「――それと実験体に違いがあるのか。あんたにとってそっちのプル達も実験体には変わんねーんだろ!」
「プルシリーズが本当の意味での実験体に見えるようならまだ認識が甘いとしか言えないな。本当の実験体を見せてやろうか。幸いすぐそこにあるぞ」
プルシリーズは実験体であり、私の作品であり、子でもある。
それとただの実験体が同じはずがない。
「い、いや、いい」
「遠慮することはないが……それでどうする」
「お、俺は――」