第五百八十九話
「ジュドー、行っちゃっていいよ」
「プル?!」
「ジュドーがどうとか以前に、私は私でいるためにはここでしか多分生きていけないんだよ」
「そんなの皆が黙ってれば――」
「連邦はニュータイプを集めてるんでしょ?この前のネオ・ジオン同士の戦いで反乱を起こした方が私のクローンを使ってたって話を聞いたけど、裏で連邦とも繋がってたって聞いた。ということは私の存在も漏れてるって考えた方がいいと思うの」
情報はいくらか渡していたが、自身でそこまで思い至ることができたか。エルピー・プルは感情に流されやすい性質だが、こちらも成長しているようだ。
「アーガマはいい人達が多いけど、命令には逆らえないでしょ?多少は庇ってくれても軍人だし最終的には……だからって今更ネオ・ジオンに戻るのも嫌。ここのとは違って実験も訓練も痛いし苦しい辛いことばっかり、自分が自分じゃなくなるようなあの感覚なんてもうごめんだよ。それに自由がないもん。少なくともここならお仕事以外の時間なら自由にしてもいいし!だよね?」
「社会貢献と和を大きく乱さなければ後は自由ではあるな」
まぁミソロギアの社会貢献は外ほど甘くはないがな。
スローガンとして定めているわけではないが、強いて言えば『自己の成長、人類の進化』あたりか。外のように生活するためや娯楽のために労働するのではなく、外でいうところのスポーツ選手達に近い。しかし、そのスポーツ選手も一生を鍛え続けるようなことはしない。大体加齢による肉体の衰えか怪我が原因で引退と言う名のゴールが存在する。
だが、私の下では肉体の衰えなどなく、負傷など脳さえ無事なら新しく整えることができる。つまり長い年月を成長に費やし続けるだけの精神が必要になる。エルピー・プルがその精神を備えているかというと……それこそ成長に期待と言ったところか。言ってやめられたら面倒なんで言わないが。
嘘はつかないが、都合が悪いことを言わないことはある。
「……お兄ちゃん、行った方がいいと思うの」
「リィナ」
「プルを差し出すみたいで気が引けるのはわかるの。でもアレンさんはちゃんと対価を払えば解放もしてくれる……ですよね?」
他に用意ができるならエルピー・プルを開放するのも吝かではないので頷いて肯定する。
同一存在であるため欲したが、兵士としてもニュータイプとしてもプルシリーズに劣っているので別のものでも問題はない。
「でもビーチャさん達をここで助けなかったらきっとこの先ずっと後悔することになるわ」
「そんなことわかってるさ!でもどうやって助けるんだよ!あれだけ説得したのに頷かなったんだぞ!」
「いつからお兄ちゃんはそんなに行儀が良くなったの?言って駄目なら殴ってでも連れてくればいいのよ!」
「リ、リィナ?」
珍しく語調を強く、ジュドー・アーシタが狼狽える。
「アレンさんの実験を経験しているんだから連れて来ることに抵抗はないんでしょ?なら無理矢理にでも連れてきてから話し合えばいいのよ。死んだらそれで終わりなんだよ?!」
「リィナ……そうだな。迷うよりとっとと連れてきて水槽にぶち込んでから話し合えばいいんだよな!」
脳筋が過ぎないか?
それとリィナよ。いくら送り届けると約束したとは言っても拉致の協力は別の話だぞ?いくら問題児とはいえ、今のアーガマにとっては貴重な戦力だ。抜けられると困るだろう。
「私も付いていきたいけど……足手まといになるからここで待ってる」
声が固い。自分が安全なところにいることが最善とわかっているが、それを受け入れられるほど無責任ではないようだ。
「私はついていくよ!ビーチャ達を引っ叩いてでも連れて来るから安心しな!」
「エルさん……お気をつけて」
さて、ビーチャ・オーレグ達の拉致が決まったようだが……また躾をしないといけないのか?面倒な。