第五百九十話
「イッテェ!」
「くそ、一撃で仕留めそこねた!」
「ジュドー?!お前なんでいきなり襲ってくるんだよ?!てかいつこっちに来た――」
「話す時間が勿体ないからだよ!大人しくお縄につけビーチャ!」
ミソロギアに住み始めてから勉学に励み……励まされて多少知識を得たはずのジュドーだが、今は心理的に余裕がなく、考える時間がここに来るまでに多少あって頭を冷やし、出した結論が結局は面倒だから殴り倒して拉致することだった。
なぜこれほど急いでいるかというとミソロギアに帰るには大気圏を離脱して更にミソロギアは一般と全く往来がないため船をチャーターするか、ミソロギアの資源基地で乗せてもらうしかない。
資源基地から乗せてもらうというのが現実的ではあるが、運が悪いことにアーガマが駐留地の近くには資源基地はない。
アレンの善意で来た時の船が隠れて待機しているのだが、問題は連邦やアーガマに船やジュドー達が見つかったらすぐに帰還することになっていることだ。
ビーチャ達の拉致が上手く行けば問題ないが、失敗してしまった場合、真実はどうあれ連邦はビーチャ達をスパイ容疑で連行し、ニュータイプ研究所送りとなるとジュドー達はアレンに聞かされていた。 待機している無人船で戦力はおらず、見つかってしまえば撃墜され、ジュドー達が見つかってしまえばやはり撃墜される未来しかなく、落とされる結果が同じなら最初からジュドー達を切り捨てることにしたわけだ。
ちなみに護衛を出す話もないではなかったが対価が用意できなかったので断念することになった。
「お前?!まさか俺達を売ったのか!!」
「お前ら視点ではそう見えるかもな!」
「グェッ!くそ!なんかめっちゃ、ぐは?!つ、強くなってないか?!」
長い付き合いであるためお互い力量を知っている。そして自分のほうが若干ではあるが強いと確信していたビーチャだったが――
「ジュドー!こっちは終わったわよー!」
「モンド!イーノ!エル、テメェまで何してんだ?!」
モンドとイーノを担当していたエルは瞬く間に2人を後ろ手に枷を嵌めて拘束し、無針注射によって麻酔で無力化、そして現在は偽装用のスーツケースに詰められている最中である。
ちなみに2人はエルにワンパンで片付けている。
「いやー、プルちゃん達の指導の賜物ね」
前の世界のエルがセクハラされ、ジュドー達がそれの報復を行ったことで逮捕され、それをアレンが拾ったことを覚えていて、この世界でも同じようなことになるかどうかわからないがとりあえず護身術ぐらいは教えとこう!というプル達の親切心の賜物(成果)である。
「ジュド~、手助けはいる感じ?」
「ハッ、必要ないね!すぐ片付けるからスーツケース用意しとけ!」
「りょうか~い。後10分以内に出ないと船が見つかる可能性が30%になるみたいだから早くね」
「お前ら――」
「エル、ナイスアシスト!」
エルの本当の狙いはビーチャの機を逸らせること。
1対1でなんとか拮抗が保てていたのに仲間のピンチやその仲間のピンチの源であるエルを目にしたビーチャは致命的な隙を見せてしまい、それをジュドーは見過ごさず――渾身の一撃を鳩尾に叩き込んだ――が――
「ぐはぁ」
「え?!ビーチャ大丈夫か!!」
見事に入った急所への一撃はビーチャの内臓を傷つけ、ビーチャは口から血を吐き出した。