第六十話
「もっとも船内の整備やファンネルやプル達が乗るMSなどのメンテナンスに触手を使う必要があるのでサイコミュ1台は予備と考えて実際は80〜100と言ったところか」
「それでも十分——ちょっと待て、そうか、これは船だったな。これに更にMSが乗る?しかもプル達まで加わってファンネルを使うとなると……悪夢だ」
……ふと思ったが、もしかしなくてもアクシズの軍と殴り合いしても勝てるかもしれない。
まぁその場合、もっとも障害となるのは私自身が開発したアレン・ジールだがな。
現在アクシズには6機のアレン・ジールが配備されている。
Iフィールド発生装置が足を引っ張るが、機体自体の生産性の良さは専用の部品が多いガーベラ・テトラより良いぐらいだ。そして星の屑作戦で戦果を示したことからこの配備数は不思議ではない。
そして採掘船……早く名前を考えないと呼び辛いな……は実弾装備がシールドビットの迎撃用バルカンぐらいしかない……いや、ファンネルをIフィールドの内側に潜り込ませればいけるか?
「ふむ、案外どうにかなりそうだな」
「一応言っておくが……アレンがアクシズの敵になるなら……私はアレンの味方だ」
……おっと、一瞬お約束とは違った展開で思考停止していた。
ハマーンのことだからてっきり『アクシズの敵になるなら容赦はしない』という言葉が来ると思っていたのだが真反対の台詞が出てくるとは思いもしなかった。
それはアクシズのトップとしてどうなんだ。
「ミネバ様を連れていれば大義は立つ。問題ない」
そういう問題か?確かにハマーンとミネバがこちらに付けば、アクシズの柱を引っこ抜くことになるので勝率が上がるが……まぁ私がアクシズと戦うなどということはないだろうから話を戻すことにする。
「この船の良いところは備え付け武装ではないため、採掘船として利用するのに支障がないということだな」
ファンネルは言うに及ばず、追加で搭載するサイコミュ3台も備え付けではないため、平和な時は格納庫で肥やしになることだろう。
「なるほど、アレンらしいな」
「非効率を好むのは趣味の時だけ、というのが心情だからな」
「しかし、船なのだからメガ粒子砲ぐらいは付けておいた方がいいのではないか。相手がMSならファンネルでどうとでもなるだろうが戦艦が相手だった場合、砲撃になるはずだ。ファンネルはビットほど長距離の運用に向いていない」
ふむ、言われてみれば確かに。
敵が連邦やその派生であるティターンズとするならMSの普及も進んでいるとはいえ、戦艦も未だに多いと聞く。
G対策を施した上に私が操船している以上、簡単にやられるとは思えないが一方的に攻撃されるだけというのは面白くないな。
となると戦艦と同性能のメガ粒子砲が必要になるわけだが……さすがに簡易な取り外しというのは難しいか?
また新たな課題ができたな。
とりあえず、専用機?専用艦?ができたので早速試験運転をしてみる。
対戦相手はハマーン、イリア、プル初期中期組の8人が相手だ。
機体はハマーンはキュベレイ(仮)、イリアは専用のゲルググ、プルがガーベラ・テトラでプルツーとプル3以外はハマーンが調達してきたゲルググに、そしてプルツーとプル3が乗るのは試作型ガザCだ。
おもちゃの試作型でプルシリーズの反応速度についてこれるわけもないが、それはゲルググも同じなのであまり気にしないようにする。
ハマーンは試験型ガザCの運用データが欲しいからと持ってきたのだが……戦場素人を乗せることをコンセプトにした機体にプルシリーズの運用データなんて必要ないと思うが、言わぬが花か。
『では始めるぞ』
ハマーンは声と同時に動き出す。それとほぼ差なく、イリアとプル達も動き出す。
最初からフルスロットルでこちらに突っ込んでくる。
まぁ気持ちはわかる。
このファンネル空母は圧倒的な数と火力だが、MSと違って接近戦ができない中距離特化といえる。そしてハマーン達は長距離武装を保有していない以上は接近戦を仕掛けるのは当然の戦術だ。
「ただし、私のファンネルを潜り抜けることができるならば、だがな」
ハッチを開き、ファンネルとシールドビットを射出する。
その総数は100基。
艦載機がいない、船内も万全な状態であるため触手に出番はないため、サイコミュ3台を全てビットの操作に割り当てる。
そして射出したビットの内訳はファンネル80、シールドビット20でファンネルは攻撃手段であるため臨機応変に対応することになるが、シールドビットはハマーン、イリア、プルにそれぞれ3基張り付けて、後は適当だ。
さあ、何処まで戦えるかな。
と思ったらあっという間に全機撃墜して終了した。
まずはやはりというかなんというか……試験型ガザCが墜ちた。
ガザC自体、元々素人に比較的安全な砲撃戦をやらせようというコンセプトのMSであるため、加速性こそゲルググを上回るが機動性や運動性、追従性はゲルググに劣る。コストパフォーマンスは認めるがな。
そんな機体では10基のファンネルの攻撃を避け続けるなどというのは無理という話だ。
そしてプルツーとプル3が墜ちたとなると相手は6人に対して、80基のファンネル、つまり1人に13基のファンネルを付けることが可能になり、それで経験がまだまだ足りないプル4〜6のゲルググが墜ちる。
そうなると1人に付き26基以上のファンネルという絶望的なことになり、調整していると言っても所詮旧式でしかないゲルググに乗るイリアが墜ちる。
そして、イリアに張り付いていたファンネルがハマーンとプルを捕捉して攻撃を加え始めるとそう時間を置かずに撃墜判定となった。
『『『理不尽だ!!!!』』』