第五百九十二話
「ダハー!疲れたぁ」
「なんとか帰って来れたわねー」
アーガマの警報は幸いなことに、行方不明者の捜索ではなく、侵入者への警戒を優先、つまり外ではなく、内側に人を配したことでジュドー達は無事船に乗り込み、現在は全速力で資源基地に移動中である。
「ビーチャは治療カプセルに放り込んでおくとして、モンドとイーノはどうしようか」
「この後基地に着いてからの予定は――3時間の休憩か……微妙な時間だなぁ」
ただ話をするだけなら十分な時間だが、無理やり連れてきたことで機嫌を直させ、事情を説明し、納得させるためには心許ない。
船は無人で動いている。穏便に済ませることができればいいが、もしビーチャ達が暴れ出すとジュドーとエルだけで対処しなくてはならない。
資源基地だとプルシリーズが駐留しているが、オイコスの本格稼働のためとそもそも捨てることを前提としている資源基地の人員は最小限しか存在しない。つまり、手伝ってもらおうとすると無理が発生し、無理を通すなら対価が必要である。そして言うまでもないが対価を用意はできない。
故に自分達で対処しないといけないが、今度は不意打ちじゃなくて正面から、明確な敵として対峙してしまえば致命的なまでの関係の悪化になりかねない。
なら――
「「宇宙までこのままでいいか」」
という結論に同時にたどり着いた。
「宇宙に出ちゃえばいくら暴れたって帰れないし、プルちゃん達もいるからね」
母艦級は艦の中では広いが、コロニーなどに比べるべくもない。それ故に狭い空間に慣れているとはいえ、やはりストレスを感じてしまう。長期任務となればなおさら、だからこそ交代要員は豊富に用意されている。
余剰がいる中から危険度の低い手助け程度なら対価も軽い労働ぐらいで収まるのでジュドー達的にも気軽である。
「私達はこれでいいけど良かったけど……アーガマは大丈夫かしらね。攫ったのは後悔してないけど、アーガマの戦力って今、ルーだけじゃん」
「ネオ・ジオンも活動を抑えてるし大丈夫だとは思うけど……調べてみるか」
アレンから渡された携帯端末は船内で使用すれば知られても自分達が困らないなら連邦やネオ・ジオンの機密情報すらも調べることができる。
もっとも情報量が多く、専門用語が多いためジュドー達が読むのはもっぱらプルシリーズ上位、中位ナンバーが未熟な下位ナンバーに読みやすいようにまとめた情報程度だが。
「へー、カラバがエゥーゴと合流するんだってさ。近い内にパイロットも補充するみたいだ」
「もしかしてだからビーチャ達を連れて行こうとしたのかしら」
「その可能性もあるってさ」
「でも大丈夫かなぁ。ΖとかΖΖって普通の人じゃ乗りこなせそうにないけど」
自分達が特別だ、とは思わないが共に戦っていたパイロット達の戦いぶりを思い出してエルは不安になった。
「カラバは精鋭を集中運用してるから俺達が一緒に戦ったことあるのは言っちゃ悪いけど2線級なんだと。今回合流するのは連邦の白い悪魔って呼ばれてる人の教え子らしいから期待できるんじゃないか」
「へー……ケーラ・スゥ、あ、女の人なんだ。ならルーもやりやすいかもね」
「そういえば周りが男ばかりだと誘われて面倒だって言ってたっけ」
間接的にジュドーを男として見ていないということなんだが、ジュドーもルーのことを女として見ていないのでお互い様である。