第五百九十三話
「それでカミーユの治療はどうするか決めたか」
「っ?!ア、アレンと言ったかしら。他人の家に無断で上がるのはやめてもらえるかしら」
臨時で介護士として働き、帰宅したファだったがカミーユしかいないはずのそこには見知っている程度でしかないアレン(人形)の姿があった。
「では玄関の前で待っていた方がよかったか?」
「……それはそれで困るのは確かだけど事前に連絡がほしいと思うのは贅沢なことなの?」
「女性に対して悪くは思うが、時間があまりないのでな」
「――何があるんですか」
前にサラッと聞かされた情報がコロニー落としという大事であったことからアレンの発言は本人の様子や声色などを当てにしてはならないと短い時間で学んだファは、今回も大事なことかもしれないと疑った。
「端的に言えばカミーユ・ビダンの捜索が本格的に行われ始めた」
「どこからですか」
「連邦からだ」
「――そんな」
ファもジュドー達もスペースノイドであり、連邦への帰属意識はアースノイドから比べると薄いが、やはり母国から狙われ、しかもその理由が非合法なものであるなら思うところがないわけがない。
「なんで今更……」
「表向きの理由は軍法会議のためとなっている。まぁないことではないがそんな理由を、それこそ今更持ち出す必要性は薄いな」
「本当の理由を知っているの?」
「知ってしまえば命が狙われる……というのは今も変わらないか」
一緒に捕まってしまえばカミーユ・ビダンに対しての人質として使われることになるのは明白だからだ。
「連邦は今ニュータイプ狩りを行っている。既にニュータイプとわかっているカミーユ・ビダンを放置する手はない。そういうことだ」
「連邦がそこまで腐ってるなんて――」
腐っているかどうかは視点次第だとアレンは思ったが、一般常識的なファに対してはあまりいい効果を発揮しないと口にはしなかった。ついでにきっかけを作ったのはアレンであることも。
「ここを嗅ぎつけられるのも時間の問題だ。私がその気になれば拉致された後でも保護することはできるがそちらとしては困るだろう?だから先に声を掛けに来たというわけだ」
「それは……ありがとう」
「礼はいい。それでどうする。逃げるというならそれでも構わないし、私達を頼るというなら安全は保証しよう。もちろん治療も引き受けるが」
カミーユの状態は希少なケースであるため、ジュドー達と違って優遇を受けることができる。
「連邦がどれぐらいで私達のところまで来るかわかる……わけないわよね」
「後3時間足らずだ」
「そんなに早いの?!」