第五百九十五話
「カミーユ・ビダンの意識がないこととファ・ユイリィが単独だということを把握しているからだろうが2流どころか3流の部隊だな」
とはいえ実質1人の人間を襲うのに60人も投入しているのだから質の問題は小さな問題に過ぎない。
私がいなければ。
「さて、どこの飼い犬か調べておくか」
転がった指揮官だった者の頭部を触手で持ち上げ、人形の搭載されている機能の内の1つで網膜、指紋、歯形、耳の形をスキャンしてプルシリーズが集めてきた情報と照合……3流だと思ったら一年戦争後に負傷兵の受け皿という名を掲げて作られた天下り先の1つである民間軍事会社の社員のようだ。だから義足や義手をつけている者ばかりなのか……ん?この義肢はリユース・P・デバイスを土台にしている?もしかするとリユース・P・デバイスの実験のための企業か。
なるほど、人体実験というのは法治国家では面倒が多いだろう。しかし、企業がそれをしたところで責任は企業になり、切り捨てることも容易く、いいトカゲの尻尾となる。
「――」
ふと視線をやれば、ファ・ユイリィの顔色が悪く、小刻みにカタカタと身体が震えているのが見えた。
まるで殺人鬼を目の前に怯える子供のようだが――確かに現実でもそうではあるが、お前に怯える資格はないだろう。お前もこちらサイドなのだから。
そもそもファ・ユイリィがもう少し早く決断していたなら接触することもなく、死ぬことはなかっただろう。
だが、あの状況で即断即決を行える者など少数、しかも他人の命も背負っているのだから更に減る。つまり、この結果は必然である。
「さて、余計なものが来る前に移動するとしよう。警察に通報されている」
とはいえ、この近くには駐在所こそあるがその規模は小さいため、激しい銃撃戦が行われているという通報でマニュアルに沿って増援が到着するまでここまで駆けつけて来ない。
カミーユ・ビダンはこのような事態になることも想定して用意しておいた浮遊型カプセルに収め、ついでにリユース・P・デバイスが使われているであろう義肢を根こそぎ(物理)回収して移動する。
「どうやって逃げるの?」
「5分後にガルダ級が到着するのでそれに乗ってもらうが着陸はせずシルメリアが持ってくるコンテナに入ってもらうことになる」
「ガルダなんてどうやって手に入れたのよ。あれはそんなに数がないって話なのに」
「ちょっとした交渉で手に入れた」
今は詳細を語らないでおこう。