第五百九十七話
ジュドー・アーシタ達が無事地球から帰還した。
そしてジュドー・アーシタ達は現在ビーチャ・オーレグの説得に四苦八苦している。
他の2人の説得は事情説明だけで終わった。
実際アーガマにいるというのにひしひしと嫌な予感を感じていたようで渡りに船だとむしろ安堵していた。
ちなみにここに来る話はビーチャ・オーレグで断られていたことが発覚し、一悶着あった。特に連邦から狙われていることに深刻さを感じていたイーノ・アッバーブは日頃の弱気さを何処かに追いやり、相談もなく勝手に断ったことに激怒して大変そうだったが、ビーチャ・オーレグはまた別の意味で怒っている、正確に言えば拗(す)ねているというか拗(こじ)らせ中だ。
ジュドー・アーシタに襲われたこと、負けたこと、自分以外がそれを受け入れていることなどが気に入らないのだ。
子供かっ、と思わなくもないが年齢的には未成年、つまり子供だったか。
「保護対象ならともかく、ゲスト扱いですらない存在はジュドー・アーシタ達に任せるとしよう」
ビーチャ・オーレグはどうにかMSを盗み出して逃げようと画策しているようだが、私達はエゥーゴの者達ほど甘くはない。代償はその生命で償ってもらうことになる、ことはジュドー・アーシタ達も理解しているだろうから止めるだろう。止めなければ、止めきれなければ裁くだけだ。
ファ・ユイリィ等の受け入れに関しては事情をカミーユ達に説明すると色々と思うところがあったようだが、地球への派遣を受け入れて既に向かっている。
実は先日、1つの可能性に気付いて派遣を急いだ。
その可能性とはカミーユ・ビダンの精神汚染とも言えるそれが同一存在であるカミーユに感染してしまうのではないか、というものだ。
精神汚染がどのようなものかはっきりしない今、ファンタジーやオカルトに片足を突っ込むような可能性でも無視するのはリスクが高い……怨念などというものならカミーユ・ビダンという個人ではなく存在を対象にしていても不思議ではない。
治療の目処が立った時に間に合うようなら感染を試してみるつもりだ。というよりも私がこれを再現できないかと訓練中だ。
ただ、私には難易度が高い気がする。
この精神汚染は精神を侵す必要があるのは感覚的に理解できるが、問題はその侵すには強い思い、執念とも呼べるものが必要なようだが、私にそこまで他人に対して強く思うというのは難しい。
これがもはや家族とも言える付き合いの長いハマーンやイリア、プルシリーズなどなら強い感情を抱くことはあるが他に対して憎しみや妬みなど負の感情を抱くことはあってもそれほど強くはない。
パプティマス・シロッコはそれほど酔狂な者だったか……いや、酔狂だったか。随分私を信奉していたな。自身で言うのもなんだが、私を信奉するなど変人が過ぎる。
「ララァ・スンやカツ・コバヤシの残留思念と方向的には似ている気がするが、あれらも人工的に行うことは叶っていない以上はやはり慎重に事を進めなければ」