第六十一話
採掘船の名前が決まった。
ハマーンの強行採決によりアッティスとなった。
アッティスというのは女神キュベレイ……この場合はキュベレーか……の息子にして愛人の神の一柱なのだが……ところでハマーンよ。アッティスはキュベレーに嫉妬で去勢させられているのだが……それを知った上で付けたのかが気になるところだが、あえて聞いていない。
ちなみに他にも名前の候補として理不尽戦艦、アレン・アレン、プルプル号、鬼畜・外道丸などなどろくでもない名前ばかりだった。
「絶対無理!あんなの絶対落とせないもん!」
「プルに同意だ。ガザCなどという不良品でなくても勝てる気がしない」
「ガタガタ……ファンネルコワイ」
プルの絶叫とも言えるお手上げ宣言とプルツーの諦めを含む呟き、そしてプル3が変なトラウマを植え付けてしまったような……おかげでニュータイプ能力は向上しているようだから問題ないとしておく。
他のプルシリーズは中期型が呆けていて、後期型は何がなんだか理解できていないようだ。
中期型は衝撃が強すぎて茫然自失状態、後期型は衝撃を受けるほどの人生経験がなくてよくわかっていないといったところだ。
「そうか、それは良かった。これで私達が安心して居られる『家』が手に入ったな」
「「「家?」」」
「そう、私達の帰るべき場所、私達だけの家だ」
「でもでも、ここもお家だよ?」
「確かにここも家だ。しかし、ここは借家だからな」
ここが居心地が悪いというわけではない。しかし、やはり自分の、自分達の家があるというのは感慨深いものがある。
宇宙の生活は誰かのものを借りて住むもので、しかも漏れなく監視がされるような窮屈な環境だ。
これはスペースノイド共通のものであり、一年戦争の遠因でもあるだろう。
地球でも土地は国のものではあるが、日頃は自覚する機会はないし、自然な大地を見てそのようなことを抱く人間は少ないが、コロニーでは人工的な大地を常に意識している。宇宙では少しの油断が死を招く。
まぁ、そんな宇宙に住む者だからこそ、ニュータイプが生まれやすいのだがな。
「よくわかんない」
まぁそうだろうな。
アクシズは比較的安全で快適な空間だ。
多少(資源と研究開発設備で)狭いがアクシズという安定した大地があり、監視の目は少ない。
しかし、やはり私自身が手がけた自分だけの空間というのは得難いものだと思う……がプル達にはまだプライバシーなどという概念はほとんど存在しないのでわからないだろうが。
さて、実は家、と言うにあたって以前諦めていた食料生産のユニットを作ろうと思っている。
諦めた理由は土がないからという理由だったが、それは卸すのに満足な量が確保できないからという意味だったが、自給するには良いのではないかと思い始めたところだ。
……これは第三者から見ると逃亡準備しているように見えるのは気のせいか?別にそんなつもりはないのだが……ハマーンに知られると変に勘ぐられてとても面倒なことになるような気がするので内密に進めることにしよう。
ガザCが本格的に生産に入ったという情報と共に以前噂にあったティターンズによるガンダムの開発計画はどうやら試験段階に突入いたという話を聞いた。
地球圏で活動しているジオン残党からそれらしい実験部隊を確認したという情報がハマーンに入ったそうだ。
そしてそのガンダムの名前はヘイズルという。
「地球圏にいる残党——同志もなかなか侮れんな。まさかティターンズの極秘計画の情報を持ち込んでくるとは」
ハマーン……お前が残党って言ってはいかんだろ。
それはともかく、今回の情報にはとても興味がある。
ただ、誤解しないでもらおう。ヘイズルとかいうガンダムに興味があるのではない。興味が湧くのは機体データがあってこそだ。
では、何に興味があるかというと……この情報を送ってきた残党というのが私をこんな辺境に連れてきた元凶である紅い稲妻ことジョニー・ライデンなのだ。
別に今となってはアクシズに来たこと自体に思うところはない。
しかし、半ば騙されたような形で連れて来られた恨みは忘れんぞ。
「アレンが改修したザクIIのおかげで地球圏の同志達はティターンズや連邦に健闘できているようだ」
ハマーンがそのデータを見せてくるが……紅い稲妻が私に対してご機嫌取りをしているのではないかと勘ぐってしまう。
特にデータが私の開発した機体のみに絞ったものである点がそう思わせる。
まぁ、生きていたことはありがたい。恨みは自分で晴らさないとな。
「まぁそのおかげでこちらも相応なMSなどを融通しないといけないのだが」
地球圏のジオン残党の主な活動は地球圏の安定を遅らせ、ジオン再興の目指すものだが、その内容は基本的には海賊行為だ。
そしてその海賊行為で得た物資は巡り巡ってアクシズにも齎される重要な物資である。その対価としてMSや部品、弾薬などを流しているわけだ。
「……この流れで行くと、また私にMSを開発しろと?」
「いや、今回はアレンの資源を買いたいのだ」
「なるほど」
元々資源に余裕がないアクシズが軍拡を進める以上、切羽詰まっているのはわかるし、プルシリーズの人数が増えて資源は潤沢になりつつある私から買い取るという選択はわからなくもないが——
「だが断る!」
「そこを何とかならんか」
「いい加減プル達の専用機の開発も手がけたいし、アッティスを拡張して生産ユニットの増設と白兵戦用兵器として触手の開発もしたい」
「……プル達の専用機は理解できるが……アッティスを一体何にする気だ」
「生産から戦闘までできる船?」
「それはもう、移動要塞ではないか」
「要塞としては防御性能がイマイチだな。やはりIフィールド必要だな」
しかし、Iフィールドは範囲が広がれば広がるほど不安定になるため、船に搭載するのは現状では難しい。
今の技術では150m程度が限界なのだ。