第六百話
「ようこそ、ミソロギアへ。ファ・ユイリィ、カミーユ・ビダン。私はアレン・スミスだ。こうして直接会うのは初めてだな」
「ここに来てから3日も経って、ずっとそこの貴方が一緒だったから初めましてというのは変な感じね。改めて紹介するまでもないでしょうけど、ファ・ユイリィよ。助けてくれて感謝してるわ。ありがとう」
「予定では出迎える予定だったのだが急用が入ってしまった。不便はないかな」
「ええ、とても快適よ。用意された服がぴったりなのとか好きな香りのシャンプーが置かれていたりと少し気になるところはあるけどね」
「保護とは言ってもゲストとして迎えるならこれぐらいの配慮は当然だ。……ああ、パーソナルデータに関しては人形を通してデータベースに直接送られ、用意したものも勝手に判断されて製造したものを配給したに過ぎない。私が知る情報は必要なことのみだから安心するといい」
「それなら、まぁ……」
懸念しているスリーサイズや体重に関しては医師として知っているのだが、言うと機嫌を損ねる可能性が高いので黙っておく。
「さて、早速だがカミーユ・ビダンの本格的な診察をしてるとしようか」
カミーユ・ビダンの診察は一般的な診察では何ら意味がない。精々が栄養状態の判断程度だ。
今までにない症状である以上は間近で診察を行う必要があったので少し延期することとなってしまった。
実はハマーンから追加依頼が来たのだが、それがニュータイプ専用機……量産型(魔改造)キュベレイの製造だった。
ニュータイプ研究所がグレミー・トトに加担したことでサイコミュ製造そのものに影響が出てしまった上に、そもそも費用が掛かり過ぎ、更には資源も心許ないという懐事情もあった。
そこで私達だ。
資源そのものもないが金もないネオ・ジオンではあるが、私達に支払う対価というのは金だけではなく、資源という資源が対象となる。
そして、ネオ・ジオンが私達に支払う資源は……人的資源。
これが普通の人間なら管理が面倒なだけで断るか釣り上げを行うし、ニュータイプなら人数次第で要検討だった。
しかしテーブルに並べられたカードは、この世界のプルシリーズ10体となれば話は変わってくる。
既にエルピー・プルを確保しているがエルピー・プルとプルシリーズでは違いが存在する。
それはエルピー・プルは原点であるからか、強化人間よりではあるもののオーソドックスなニュータイプ訓練の範疇を施されているのに対してプルシリーズは促成栽培ゆえに強化人間の訓練が施されている。
ネオ・ジオン系の強化人間はあまりデータがない上にプルシリーズならば是非欲しいということで取引に応じたわけだ。
ちなみに元々はハンマ・ハンマを、という話だったが私はあのデザインが気に入らないので量産型キュベレイをハンマ・ハンマと同等レベルの機体スペックまで引き上げたものを提供することにした。あんな試作機どころかテスト機でしかないようなものを量産するなんて御免被る。
おかげで3日も時間を要してしまったのだがな。