第六百二話
カミーユ・ビダンの治療が思った以上に面倒くさい。
家そのものを傷つけずに壁の塗装を剥いでいくような作業を延々と熟さなければならないといえば理解できるだろうか。
少し安請け合いしたことを後悔している。ひょっとすると人生において1番後悔しているかもしれない。
今まで私は生きたいように生きてきた。だからこそ苦行と思えるものを長時間行ってきていないため、このような繊細でありながら単純な作業、しかし、その塗装には気泡があったり厚みが違ったりと本当に単純でもない。
「回路を刻むのは楽なんだがな」
素材が均一で触手の損耗も慣れてしまったため無意識に交換時期がわかるほどになっている。
何より回路は私の手足に等しいので苦にならない。
「プル達に仕事を割り振ってなかったら更にきついことになっていたな」
やはり何事にもゆとりは大事だということだと改めて実感する。決して勢いで研究テーマを増やしたからではない。
「何か解決策があればいいのだが……慌てても仕方ないか」
まだまだデータを取り始めたばかりなのだから急いでもことを仕損じるだけ……なのはわかっているが……いかんな。精神的疲労で思考ループしている。
「救いはファ・ユイリィが思った以上にいい仕事をしていることだな」
アーガマを降りた後、介護職についた関係で料理の勉強し、こちらのファ・ユイリィとは違った味付けとなっていてミソロギアに小さな波紋を生み出している。
「プル達は食道楽が多いからな……自分で作ろうとする個体は少ないが……ネオ・ジオン産のプルシリーズはどんな個体だろうか。楽しみだ」
一応エルピー・プルという存在がいるが、あまりにもプルと共通点が多過ぎてメンバーとなってからは埋没し過ぎてわからないほどだ。強いて言えば『エルピー』という姓を持っていることで嫉妬されているぐらいか。嫉妬される方もする方もニュータイプ訓練になるから問題はない。