第六百三話
「私の姉妹が来るってホント?!」
「ああ、本当だ。楽しみか?」
「不安もあるけど楽しみの方が大きいね!どんな子なんだろう。やっぱり私そっくりなのかな。それともプルツーちゃんタイプかなぁ」
特に隠しているわけではないからそのうち来るだろうとは思っていたが、思った以上にテンションが高い。
どうやら自身のクローンに思うところは今のところないようだ。
ミソロギアにいるプルシリーズは厳密にはこのエルピー・プルとは遺伝子的繋がりはない。同一存在であっても遺伝子は違う。一卵性双生児どころか二卵性ですらないほど異なる。
それを潜在的に気づいているので同族嫌悪に類するものも抱くことはなかったが、今度は本当の意味で一卵性双生児が相手だ。定期的にカウンセリングを実施した方がいいだろう。
「話はそれだけではないだろう」
「あ、そうそう。私もMSに乗る許可が欲しいの!」
そういえば今まではお客様だったからシミュレータしか許可していなかったな。それに加えてプルシリーズの権限でもないな。
「だが、戦うのを嫌っていなかったか」
エルピー・プルはネオ・ジオンの訓練によってか、それとも生来のものか、戦う……言葉を濁さず言えば殺し合うことを嫌悪している。
一般人では当然だとしても軍人として教育された存在が嫌っているのだから根強いものだ。人手不足ではあるが戦闘要員は困っていないのだから無理をする必要はないのだ。
「んー、なんていうのかなぁー。せっかくできたお家だから私も守りたいなーって」
「ふむ」
私が思っていた以上に絆されているようだ。
ネオ・ジオンは帰る家というより職場という感覚に近く、業務内容がブラックなら守る気にもならなかった、と。
「理解はしたが不許可だ」
「ええー!なんでー!」
「MSに乗りたければまずは順位を上げることだな」
シミュレータには成績が記録され、それを基準を超えなければMSに乗る資格を与えられない。意気込みは買うがそれだけでは叶わない。
「成績表を見れば下から数えた方が早いのだからもっと努力することだな」
「むぅ」
もっとも、最たる理由は身体改造を受けていないことなのだが、それに気付いていないようだが、気づくのも訓練の内だ。
ただ、私の調整を受けずに最下位でないあたり、優れている部類なのは間違いない。例え競っているのが生まれて間もないプルシリーズだったとしても。