第六百五話
この世界のプルシリーズ支払いが延長されることとなった。
連邦の討伐軍、しかも大部隊と正面から戦うというのだから仕方ないと言えば仕方ない。
最終的に受け取れるなら問題ないが……不履行を起こせば連邦に勝てても私達が相手をすることになる。そうなればネオ・ジオンに勝ち目は世界征服を達成するよりもない。そうなってしまえば面倒が増えるので実質私達の負けなのでそうならないように願うが。
とはいえ、この程度の予定変更でミソロギアに影響はない。唯一影響があったとすれば楽しみにしていたエルピー・プルの機嫌が悪くなったことぐらいだ。
「しかし……これは勝てるのか?」
ネオ・ジオン軍は急ピッチで戦力の拡充を図っている。
そしてその根本であるパイロットの補充と練度の向上は急務である。故に本来なら戦力を敵に悟られないように隠蔽するものである教練の類は一切隠されず、ほとんどがシミュレータではなく、実機による実戦的訓練が眼の前で実施されている。
連邦軍との戦いまで5日なのだが――
「ひよこの方がまだ鳥らしいぞ」
歩くだけでもコロコロと転がり、飛ぶことなどとてもできないひよこだが見た目だけは鳥だ。
しかし、今、目前で行われているものは人とも言えない動きに加えて人型兵器のはずが、そうは視えないほど滑稽なそれにさすがの私も不安に思う。
「一応欺瞞らしいが……3割のはず、だが?」
連邦に油断を誘うため、3割がMS適性の低い新米パイロットであると事前に教えられているが……前の世界のネオ・ジオン基準で言えば7割が満たしていない。
そんなパイロット達が乗っているのが量産型バウだというのだから不思議なものだ。
量産型バウは現行のMSの中ではスペックだけみれば上位から数えた方が早い。それなのにパイロットは前の世界のネオ・ジオンの新米パイロット以下が乗っている。不思議だ。
それに加えて敵役を務めるパイロットも質が悪い……こちらはあまり強すぎると無双し過ぎるからかもしれないが、もう少し加減が上手いパイロットはいなかったのか……人的資源の枯渇が深刻だ。
「幸いなのはニュータイプが若干混ざっていることか」
この実戦的訓練でニュータイプとして覚醒したパイロットが5人ほどいる。
十分な知識がない状態で実戦形式ともなれば混乱に陥り、素質がある程度あれば低確率ではあるがニュータイプとして覚醒する可能性は大いにある。反面、トラウマになりパイロットとして使えなくなる可能性の方が大きいため実用性は乏しいが。