第六百六話
「ハマーン閣下も大変ですねー」
「ほんにほんに、内乱に続いて外敵、一難去ってまた一難……とはいえ、歴史的には珍しゅうないこと」
連邦討伐軍とネオ・ジオン軍の艦隊を眺めながらぼんやりとした会話を楽しむプルシリーズ。
「こっちのはにゃーん様も大変そうだけど自業自得なんだよねーー」
「大人しゅうお父上のアッティスを諦めれば楽でしょうに……かっこ悪くはありますけど」
「アレンパパは気にしないけどねー」
「それでも意地を張りたい時が女にはあるのでしょう」
「ポリコレとかいう無秩序主義者に怒られるよー?」
「己の方が怒られるようなことを言っておられる自覚はありますか?」
「だってマイノリティ救済とかわけわからないもん。マイノリティを守るって何様?上から目線で差別してない?多様性と言いながら差別という多様性が認められないとか他者に強要するくせに公平とか平等なんて――あ、連邦側の陣が整って演説始まったね」
「……?誰?」
「……本当に誰?え、ちょっと誰か知ってる子いるー?」
「あれ?データベースに照合したらこの人、軍人じゃなくて政治家さんだね」
「連邦の政治家は対して重要度も高くないし、人数が多いからノーマークだったよ」
世界最大国家の地球連邦。
この世界で組織として存在するなら攻めにしろ守りにしろ外交手段として連邦の政治家と繋がりを持ちたいと思い、調べることぐらいはするだろう。
しかし、ミソロギアは世界から孤立した組織である。
法律なんぞ知るか、取引なら企業でいい、問題が起きれば武力で片付けるか手も足も出ないような辺境か時を渡ればいい。そんな組織であるため戦闘員であるプルシリーズは優先順位が低い政治家の情報は連邦でもトップクラスの大物や任務でもない限り把握していないし、脳内容量の無駄だと消し去ってしまう。
それに加えて――
「あー、この人の親が要チェックの大企業の元締め(表に出ていないトップという意味)さんだ」
「手柄になると息子を軍に同行させたわけ?一年戦争の時でもそんなことしてなかったよね?」
政治家というのは口先だけで何もしないのが仕事だとプルシリーズは思っている。現実は増税しないとか言っておいて賦課金は税金じゃないから増やしてもセーフとか高齢者なら安く使えるし年金も払いたくないから高齢者の定義を70歳に引き上げとか定額減税で(年間)4万円で生活が楽になるとか投資ができるよ!とか頓珍漢なことを言ったり裏金を貰っている政治家が裏金を取り締まる意味不明なことをしたりしている有害な無能がいるのだがそれはおいておく。
しかしプルシリーズが言っている通り、戦場にしゃしゃり出てきた者視察中に不幸にも巻き込まれた一部の不幸な者以外は存在しなかった。
理由は簡単で政治家が扇動すると最初は上手くいっても後で必ず責任問題になってしまう。だから陰ながら口出しするが戦場には出てこない。
「なんで今回に限って出てきたんだろ?」
「……あ、この企業って確かニュータイプ研究所のバックじゃなかった?」
「ほんとだ!もしかしてそれで無理やりねじ込んだ?いやいや慣例主義の連邦がこんなこと許すなんて」
「どうやら次期首相の座を狙ってるみたいだよ」
「あー、もしかしてエゥーゴとティターンズの内戦の情報が今更広がってるのはもしかして……」
「相打ちしたのを自分達の手柄にしてネオ・ジオンも倒して強い連邦『政府』をアピールしたいらしいわね」
「小賢しいわね」
「図体がでかいのにやることが小さい」
「たぬき」
「きつね」
「ねこ」
「しりとりしてるんじゃないの」
「あ、次はハマーン閣下が演説始めたよ」
「もう戦う準備万端なのにお互い演説終了まで待つなんて変な感じだね」
「あまり姑息な手を使うと残党が多く残るからってのが理由らしいわよ」
「あー、なるほど。だから今回は特殊部隊じゃなくて軍なんだね」
「ほら、特殊部隊はティターンズって前例があるから」
「あれはジャミトフおじいちゃんがいてこそでしょ」
「その代わりがあのボンボンなんじゃない?」
「……無理じゃね?」
「まぁ、お遊びしか知らない人達らしいですから」
「そもそも私達がネオ・ジオンに付いてる時点で負けはないんだよなー」
「慢心はダメ。絶対」
「あのニュータイプ(笑)部隊みると気持ちもわからなくはないですけど」
「それはそう――慢心ダメ。絶対」